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Rasの移動経路を再検討

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2005年4月1日

あるタンパク質について、その全てのアイソフォームを1つのグループにまとめてしまうのは簡単である。しかし、RasGTPアーゼであるH-ras、N-rasおよびK-rasについてもう一度考えてみると、これらはそれぞれアイソフォーム特異的な異なる生物学的結果をもたらすことに気づくだろう。またこうした特異性はこれら3種のタンパク質が細胞膜(PM)や細胞内膜の決まった場所にだけ局在することによっている。こうした性質はまた、タンパク質のC末端の脂質による修飾の結果でもある。これらのRasはまずファルネシル化され、さらにAAX部分の酵素による除去とファルネシル基の結合したシステインのメチル化を受けた後、H-rasとN-rasはパルミトイル化され、その結果PMおよびゴルジ体膜に局在するようになる。これに対してK-rasは分泌経路に入らずPMに局在している。

PMもゴルジ体もRasシグナル伝達が活発に行われている部位だが、パルミトイル化されたRasのアイソフォームがそれぞれ決まった細胞内小区画だけに局在し、そこでだけ活性を発揮するようになる仕組みはまだわかっていなかった。今回RocksらがScienceに発表した研究により、こういう特異的な小区画化の維持は、構成的に行われる脱パルミトイル化と再パルミトイル化のサイクルによっていることが明らかにされた。

ゴルジ体に局在しているRasは新生タンパク質のPMへの輸送にかかわっていると考えられていた。しかしRocksらは、タンパク質合成を阻害して新生タンパク質を無くしてやっても、H-rasとN-rasはなおゴルジ体に局在することを明らかにした。さらに、光退色と光活性化の実験から、パルミトイル化したRasはPMとゴルジ体の間を循環しており、ゴルジ体にあるRasはPMに局在しているRasの逆方向輸送によって補充されることもわかった。ヘキサデシル化したN-ras、つまりHDFarは脱パルミトイル化あるいは再パルミトイル化されない。これを用いて著者らは、Rasの局在はクラスリン、カベオレ、あるいはコレステロールを介して起こるのではなく、脱パルミトイル化と再パルミトイル化が必要であることを示した。微量注入したHDFarは膜系全体にわたって非特異的に存在するようになったのである。

Rocks らはまた、H-rasおよびN-rasの輸送の反応速度論的性質が異なることに気づいた。H-rasは2個のシステインがパルミトイル化されるが、N-rasでは1個のシステインだけにパルミチン酸分子が付加される。N-rasはH-rasよりも輸送速度が速いので、Rocksらはパルミトイル基1個だけが付加されたH-ras変異体について測定を行った。C181S H-rasとC184S H-rasは、野生型のH-rasよりもゴルジ体に局在することが多くなり、PMとゴルジ体の間での交換もより速いことがわかった。さらに、PMとゴルジ体でのRas活性化の動態を比較するための新しいアッセイ法が考案され、H-rasは増殖因子の刺激に応じてPMで速やかに一時的に活性化され、ゴルジ体での活性化は開始が遅れるが持続的であることを明らかにした。これとは対照的に、活性を持つC184S H-rasとN-rasはゴルジ体でずっと早くから観察される。パルミトイル化を完全に阻害してしまうと、PMからゴルジ体への移動が遮断され、それによってRasの活性化も起きなくなる。

つまり、PMとゴルジ体にあるパルミトイル化されたRasアイソフォームの間で起こる迅速な交換は、脱パルミトイル化と再パルミトイル化のサイクルによって駆動されている。Rasは脱パルミトイル化によって、細胞質ゾルと膜の間で均一に分布するようになる。再パルミトイル化はゴルジ体で起こり、これによりRasは膜に安定に結合できるようになる。Rasはここからエキソサイトーシス経路によりPMへ再度送り出される。今回発見されたようなサイクルは、PMとゴルジ体に局在することが知られている他のタンパク質にも見られることがわかったので、Rocksらはこの過程は細胞内でのタンパク質の送達に広くかかわっているのだろうと考えている。

doi:10.1038/fake578

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