Highlight

トリオで働く活性化因子

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2003年9月1日

細胞骨格の重要な調節体である低分子量GTPアーゼRac1の上流には、Elmo(呑食および細胞運動タンパク質)とDock180が存在している。Rac1は、また別の低分子量GTPアーゼであるRhoGからのシグナル伝達カスケード反応によって活性化される。Natureに発表されたKatoh(加藤裕教)とNegishi(根岸学)の論文は、これらの成分の間のつながりを明らかにし、またRhoGはElmoとDock180との3つで複合体を作り、これがRac1の活性化を開始することを明らかにしている。

Rac1やCdc42と同じように、RhoGは細胞の形態に関わる過程に関わっている。しかし、RhoGがRac1とCdc42とちがうのは、Rac1やCdc42の既知のエフェクターと結合しないことだ。そこでKatohらは、結合相手となりそうなものを探すために、構成性活性を持つRhoG(V12RhoG)を用いて酵母ツーハイブリッドスクリーニングを試みた。結合相手となりそうなクローンの1つは、Elmo2をコードしていた。Elmo2は、Rac1の上流にある調節因子である。プルダウンアッセイ法を用いて、KatohとNegishiはElmoがGTPが結合したRhoGとだけ結合し、GDPの結合しているRhoGとは結合しないことを見出した。またElmoのアミノ末端(第1-362残基)があればこの結合は起こることも分かった。哺乳類細胞にコトランスフェクションさせたV12RhoGとElmoもまた、相互作用するとわかった。Elmoは、V12Rac1、V12Cdc42、あるいはV14RhoAとは結合しない。また、ドミナントネガティブなRhoG(N17RhoG)や、エフェクター領域にフェニルアラニン→アラニン置換(F37A)が起きて、形態変化は誘導できないV12RhoGもElmoと結合できない。

Elmoはすでに、そのカルボキシ末端を介してDock180と結合することがわかっており、RhoG-Elmo-Dock180複合体が形成される可能性が考えられていた。RhoGとDock180は、哺乳類細胞中で共免疫沈降反応を起こすが、それはElmoが発現されているときだけである。もし、Elmoのカルボキシ末端(Dock180と結合する)が欠損すると(Elmo-T618)、RhoGとDock180の結合も起こらなくなる。

Dock180とElmoは主に細胞質に局在しているが、Dock180が細胞膜に運ばれるのは、その細胞骨格に関する役割について重要である可能性がある。だとすると、RhoGはこのDock180の移動に関わっているのだろうか。V12RhoGを同時に発現させると、Dock180とElmoがV12RhoGと共に細胞膜へ移動するのが実際に観察された。

RhoGはDock180の局在化に影響するだけでなく、V12RhoGもDock180とElmoが仲介するRac1の活性化を増強する。Elmo-T618はDock180と結合しないが、V12RhoGがDock180のRac1への影響を増強するのは阻害する。このことは、RhoGがElmoを介して、Dock180が誘発するRac1活性化を促進していることを示している。Elmo-T618はV12RhoGが膜の波打ち(ラフリング)の誘導を阻害することから、Elmo-Dock180の結合はこの細胞骨格変化に必要であるらしい。同様に、Dock180の変異体(Dock180-ISP→AAA)でElmoに結合するがRac1の活性化は起こさないものも、膜の波打ちを阻害した。

Dock180は、インテグリンシグナル伝達系の下流で機能している。そこで、次にRhoGとElmoの関わりが調べられた。N17RhoG、Elmo-T618、あるいはDock180-ISP→AAAは全て、HeLa細胞がフィブロネクチン上で伸展するのを抑制した。KatohとNegishiはまた、293T細胞をフィブロネクチン上で培養するとRac1が活性化され、この活性化がElmo-T618、あるいはDock180-ISP→AAAによって阻害されることを見出した。このことは、インテグリンを介するRac1の活性化と細胞の伸展に、RhoG-Elmo-Dock180シグナル伝達が重要な役割を持っていることを示している。

また、RhoGは神経突起の成長に関わっていることが知られている。とすると、ElmoとDock180が神経成長因子が誘導する神経突起の成長に、RhoGの下流で関わっているのではないかと考えられたとしても、これは意外なことではない。実際Elmo-T618あるいはDock180-ISP→AAAはこの過程を阻害するのである。

従って、RhoG、Elmo、およびDock180はRac1の上流で働く重要な調節因子であるということになる。また、以前の実験結果から、RhoGは、グアニンヌクレオチド交換因子であるTrioとKalirinの標的であることが示されているので、著者らは、神経突起の成長の間にRac1の活性を調節するRhoG-Elmo-Dock180という新たに見つけられた経路は、Trio/Kalirinにもつながりがあると考えている。

doi:10.1038/fake560

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度