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コンドロイチンをよくよく見ると

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2003年7月1日

動物が持っているコンドロイチンとヘパラン硫酸は、いずれもグリコサミノグリカンに属しており、よく知られている多糖である。ヘパラン硫酸は発生に関わっていて、コンドロイチン硫酸よりも役割の解明が進んでいるが、Natureに掲載された2つの論文のおかげで、コンドロイチンもついに脚光を浴びることになった。コンドロイチンが線虫(Caenorhabaditis elegans)の細胞質分裂と形態形成に関わっていることが明らかになったのである。

squashed vulva (sqv)と呼ばれている遺伝子は、胚の発生と後胚発生中の陰門形態形成に重要であり、この遺伝子のうちの7個がコンドロイチンとヘパラン硫酸の生合成を調節していることが知られている。Hwangらは8つめのsqv遺伝子であるsqv-5のクローニングを行った。この遺伝子の塩基配列は、Mizuguchiらが別の研究でクローニングを行ったT24D1.1遺伝子と同じである。

T24D1.1がコードしているタンパク質は、ヒトのコンドロイチン合成酵素とコンドロイチンN-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼと似ている。これらの酵素は、それぞれコンドロイチン鎖の合成開始と伸長に必要である。線虫のSQV-5、あるいはMizuguchiらの呼び方に従えばコンドロイチン合成酵素(ChSy)は、この両方の機能を持っている。sqv-5ヌル対立遺伝子のホモ接合体である線虫では、この2つの機能を共に欠いている。Hwangらも、Mizuguchiらも、sqv-5/ChSyを持たない場合、コンドロイチンの濃度が著しく低下することを報告している。

2つのグループは共に、sqv-5/ChSyの発現を抑制するのに、従来から行われてきた突然変異導入法あるいはRNA干渉(RNAi)を用いている。RNAiでは線虫にdsRNAを食べさせるという方法が使われた。RNAiの場合は、従来型の突然変異導入の場合よりも欠損の影響は小さかった。RNAi処理をした線虫では死亡した胚の割合がほぼ90%だったのに対し、従来型の変異体では全ての胚が死亡した。Mizuguchiらはまた、RNAi処理で生き残った胚の60%で、生殖腺の発達が悪く、形態的に異常な卵を少ししか生まないことを見出した。Hwangらは、RNAi処理により陰門の細胞外スペースが小さくなることを報告している。

Mizuguchiらは、四次元顕微鏡を使ってさらに詳しい観察を行い、細胞分裂にも重大な欠陥が生じていることを明らかにした。胚では細胞分裂が進行するのだが、続いて逆戻り現象が起こるように見えるのである。つまり細胞数が2から4になり、ついで6になると、今度は4に減り、また6になるという具合に進行するのだ。これはどうやら細胞質分裂が不完全であるために起こるらしい。RNAi処理を長時間行った後に産まれた卵ではコンドロイチン含量が減少しているが、核分裂は正常に進行した。しかし、細胞質分裂はまったく起こらなかった。ということは、もしコンドロイチンが、胚での正常な細胞分裂と細胞質分裂に必要ならば、正常な胚をコンドロイチナーゼで処理すれば同じような表現型が誘発されると考えられる。そして、これはその通りであることが確かめられた。

Mizuguchiらは、コンドロイチンが卵母細胞、子宮、貯精嚢、受精卵の殻に存在することを明らかにしたが、これは細胞質分裂、初期の胚発生と形態形成におけるコンドロイチンの役割と矛盾しない。初期胚の細胞表面にも、コンドロイチンは高濃度で発現される。Hwangらは、抗SQV-5抗体を使って、陰門、子宮と卵母細胞の細胞質が点状に染色されるのを観察したが、この染色パターンは以前にSQV-1とSQV-7について観察されたものと同様であった。そして、Hwangらは、これらのSQVタンパク質によって触媒されるコンドロイチンの生合成反応の各ステップは、全部が同じ細胞内区画、おそらくゴルジ体で起こっていると考えている。

Hwangらはまた、コンドロイチンの持つ水を結合する性質が浸透圧形成につながり、これがコンドロイチンの細胞外スペースを拡張する働きの基盤となっていると考えている。この考えは、胚の初回の細胞質分裂や陰門形態形成における欠陥と、細胞外マトリクスの大きさの低下が同時に見られるという観察に基づくものだ。Mizuguchiらも、細胞分裂と細胞質分裂におけるコンドロイチンの役割は、構造的なものだろうと考えている。しかし、彼らは、未知のコンドロイチン依存性のシグナル伝達が細胞質分裂の完了に必要だという可能性もあるかもしれないと考えている。そして、コンドロイチンと細胞周期や細部骨格の成分との間に関係があるかもしれないと考えて、それについても調べる必要があるとしている。

doi:10.1038/fake558

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