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「崩壊」過程にメスを入れる

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2003年4月1日

移植された細胞核の核小体は、胚形成初期における核小体の生理的動態に合わせて、卵や初期胚の段階で崩壊し、胞胚期に再構築される。桔梗伸明たちは、核小体崩壊の根底にある分子機構の解析に着手し、その成果がNature Cell Biologyで発表された。

桔梗たちは、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)胚のXL2細胞の核原形質における核小体リンタンパク質B23の分散を崩壊のマーカーとして用いて、アフリカツメガエルから抽出された卵細胞から核小体崩壊活性を精製した。この崩壊活性には、2種類の生殖細胞のタンパク質であるFRGY2aとFRGY2bが関与していた。この2種類のタンパク質は、アミノ酸配列の83%が共通で、転写因子としての役割を果たし、そして卵母細胞のメッセンジャーリボ核タンパク質(mRNP)粒子で母系メッセンジャーRNAのマスキングタンパク質の役割を果たすことが知られている。次に桔梗たちは、FRGY2a、FRGY2b、組換えFRGY2a(rFRGY2a)と組換えFRGY2b(rFRGY2b)について、核小体崩壊能力を検証した。いずれの場合も、核小体は同じように崩壊し、崩壊能力はタンパク質注入量に依存していた。このことは、核小体を崩壊させる上で、FRGY2aあるいはFRGY2bのみでも十分なことを示している。

また桔梗たちは、変異型FRGY2aを作製して、FRGY2aの核小体崩壊性がカルボキシ末端ドメイン(rFRGY2a-C)に限定され、4種類の塩基性アミノ酸/芳香族アミノ酸のアイランド(BAアイランド)の蓄積が核小体崩壊の一因であることを明らかにした。BAアイランドは、RNAとの広範かつ非選択的な荷電相互作用を引き起こす。

さらにFRGY2aのin vivoでの作用を調べるため、桔梗たちは、XL2細胞にrFRGY2aあるいはrFRGY2a-Cを導入した。するとrFRGY2a-Cは細胞核に選択的に局在化する傾向を見せ、B23の分散と核小体の消失を誘発した。これに対してrFRGY2aは、主として細胞質に局在化し、B23の分散は起こらず、核小体も縮小しなかった。ただしアミノ末端のRNA結合コールドショックドメインで変異を起こすと、一部のrFRGY2aが細胞核に移動し、核小体の崩壊を起こした。

rRNAの転写は、核小体の完全性を維持する上で重要なことから、桔梗たちは、核小体の崩壊時におけるrRNA合成を調べた。その結果、FRGY2aやFRGY2bによってrRNA合成は阻害されないという重要な発見がなされた。今回の論文では、著者の知る限り、FRGY2aとFRGY2bが「rRNA合成を阻害せずに核小体の崩壊を引き起こすタンパク質として初めて特定された」と記されている。さらに桔梗たちは、FRGY2aやFRGY2bによる核小体の崩壊に可逆性があることを実証した。このことは、核小体の本質的にとって極めて重要な中核構造が保持されることを示している。

FRGY2aやFRGY2bによって核小体が崩壊することが発見されたことで、現在のところ効率に問題のある細胞核クローニングが大きな影響を受けるだろう。核小体が適切に崩壊し、再構築されることが、クローン胚の正常な成長にとって極めて重要と考えられているからだ。また、この種の細胞核の再構築に関する研究は、「細胞核の構造や機能に関する重要な知見をもたらす」ことだろう。

doi:10.1038/fake555

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