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裂け目を橋渡し

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2003年1月1日

ミトコンドリアのタンパク質の大半は細胞質で合成される。だから、TOM(ミトコンドリア外膜トランスロカーゼ)複合体、および2つあるTIM(ミトコンドリア内膜トランスロカーゼ)のどちらかの助けを借りなくては、タンパク質は最終目的地にたどり着くことができない。最近Cell誌に発表されたNikolaus Pfannerらの論文と、Toshiya Endo(遠藤斗志也)らによる論文は、どちらもTIM23複合体の方に関するものである。TIM23複合体は、プレ配列を持ったタンパク質のミトコンドリア内膜(IMM)への組み込み、あるいはIMMを通過してのマトリクスへの移行を行っている。しかし、このようなプレタンパク質がどのようにしてTOM複合体からTIM23複合体に移されるのか、その仕組みは上記の2つの論文が発表されるまで、まったくわかっていなかった。 2つの研究グループは共に、TIM23複合体の新しい成分を明らかにするところから研究を開始した。Pfannerらは、まずこの複合体を酵母のミトコンドリアから単離し、質量分析法によってほぼ50kDaの大きさの新しいサブユニットを見つけた。一方Endoらは、以前に移行中間体と架橋できることを明らかにしていたタンパク質の性質を調べることで、同じサブユニットを見つけたのである。 こうして見つかったタンパク質はTim50と呼ばれ、酵母細胞の生存に欠かせないものであることが両方のグループにより明らかにされた。このタンパク質は膜貫通ドメインを1つ持っていると予測され、IMMに局在していることがわかった。IMM中では、このタンパク質はカルボキシ末端側の大きなドメインが膜間部分(IMS)に向くように配置されている。TIM23を構成する他の成分は、チャネルを形成しているTim23のようにIMM内部に大部分があるか、あるいはタンパク質取り込みモーターとして働くmtHsp70のように、IMMのマトリックス側に位置しているので、Tim50のこの配置は他の成分とは対照的であるといえる。 では、Tim50はTIM23複合体にどのようにして結合しているのだろうか。2つのグループは共に、Tim50がTim23と結合していることを見出し、Endoらはこの結合が動的であることを明らかにした。さらに、両グループは、酵母を使うツーハイブリッド解析によって、Tim50のIMS側の領域がTim23の第51から96番目あたりのアミノ酸残基と相互作用していることを明らかにした。Tim23のアミノ末端部分はミトコンドリア外膜にまで及んでおり、これらの残基はIMSを横切るように伸びていることがすでにわかっているので、今回の結果はTim23の構造とうまく合っていることになる。 抗Tim50抗体はプレタンパク質のIMMを通過する移行を阻害することが両グループによって確かめられ、Tim50はミトコンドリアタンパク質の取り込みに直接関わっていることがわかった。さらに、Tim50と移行中のプレタンパク質との間に架橋が形成できること、またTim50はTOM-TIM23-プレタンパク質複合体と一緒に精製されることも両方のグループによって明らかにされた。Endoらはまた、移行中間体は、TOMチャネル内にある時点でTIM23複合体のTim50と相互作用が可能なことを示した。これはTim50がTOM複合体を介する移行とTIM23複合体を介する移行の間の橋渡し的な役割を持っていることを示している。 両グループはまた、Tim50の発現を調節するためにガラクトース誘導性プロモーターを使い、Tim50の選択的な欠失によりプレ配列を持つプレタンパク質の取り込みが妨げられることも見出した。さらに、Pfannerらは、プレ配列と内膜への取り込み用の選別シグナルを持っているプレタンパク質の取り込みには、Tim50の欠失があまり影響を与えないことも明らかにした。このことは、Tim50は従来の意味でのプレ配列を含むタンパク質の取り込みに必要であること、しかし、プレ配列の他に選別シグナルを持つタンパク質の取り込みには不可欠ではないことを示している。 これらの結果をまとめてみると、TOM複合体とTIM23複合体の間にある境界部分を、プレ配列を含むタンパク質がどのようにして越えていくのか、その一端がPfannerらとEndoらによって明らかにされたことになる。Tim50が新たに見つかったことで、プレタンパク質を、TOM複合体からIMSを横切ってTIM23複合体のTim23へ導く役割を果たしているのがこのサブユニットであるとわかったのである。

doi:10.1038/fake553

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