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縁の下の力持ち

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2002年6月1日

タンパク質が合成されると、続いて多数の化学修飾反応が起こるが、その中にはユビキチン化も含まれる。ユビキチン化の機能の1つは、タンパク質を26Sプロテアソームが行う分解過程に送り込むことである。ユビキチン依存性リガーゼ(E3)はユビキチン化経路の1つに関わっている。そして、E3の最大のファミリーを作っているのがSCF(Skp1-Cullin-F-box タンパク質)およびSCF類似の複合体である。今回、Pavletichらは、Cul1-Rbx1-Skp1-F-boxSkp2SCF複合体の結晶構造を3.2Åの分解能で決定し、Natureに発表した。 E3は、ユビキチン活性化酵素(E1)とユビキチン結合酵素(E2)の関わる反応の最終段階で働いている。E3は、E2およびE2の基質であるタンパク質の両方に結合し、E2からタンパク質へのユビキチンの転移を行うので、ユビキチン化反応を特異的に行う重要な役割を担っていることになる。 Pavletichらは、Cul1-Rbx1-Skp1-F-boxSkp2SCF複合体は長く伸びた構造であり、Rbx-1(SCFに不可欠の成分であるRINGフィンガータンパク質)とSkp1-F-boxSkp2(基質のタンパク質を識別する複合体)は、複合体の両端にそれぞれ位置していることを見出した。また、こういう配置は、Cul1の構造によって作り出されることも明らかにした。Cul1は引き伸ばされたような形をしていて、アミノ末端側にはへリックス構造からなる領域(NTD)が茎のように伸び出しており、カルボキシ末端側は球状ドメイン(CTD)となっている。Cul1は、いわば足場として働いて、SCFの他のサブユニット全てをつなぎ合わせる働きをしている。 Cul1のNTD領域は、cullinモチーフが3回繰り返されて作られていることがわかった。この3連反復構造は長い弓のような形をとり、一番目のモチーフのアミノ末端にSkp1-F-boxSkp2が結合している。また、Cul1のCTD領域には、Rbx1が分子間βシートを形成する形で結合しており、そこがE2の結合する部位となっていることも確認された。 Pavletichらは、Cull-Rbx1-Skp1-F-boxSkp2複合体中には、柔軟性をもった連結部分が含まれていないことに着目し、こういう剛直な構造であることが重要なのかどうかを調べるために、Cul1の変異体を使った構築体を作ってみた。この変異体では、NTD-CTD間の接触面が壊されていて、NTDとCTDが柔軟性のあるリンカーにより連結されている。この構築体タンパク質は、基質を識別するのに必要なタンパク質が存在すれば、基質タンパク質と結合することは可能で、基質に関係なくポリユビキチンを作ることもできるのだが、in vitroでの基質のユビキチン化はできないことがわかった。Pavletichらは、このことはCul1が固くて曲がらない足場となりSCF全体が剛直性を持つことがE3の活性に重要であることを示していると考えた。 今回解明されたSCFの構造を使って、著者らはSCF-E2複合体のモデルを作っている。このモデルでは、基質であるタンパク質とE2はSCF複合体の端と端に位置すると考えられている。この構造ならば、基質の結合部位と触媒活性を持つ部位は離しておけるし、また取り込まれる基質の大きさが変わって、基質のユビキチン化される部位とそのSCF結合モチーフの間の空間の広さが変化しても対応できる。Cul1の長い茎状の部分が進化の過程で生じたのは、おそらくこういう理由なのだろうと著者らは考えた。 さらに、こういう形のE3ならば、E2がもっとも反応しやすいような位置に、基質であるタンパク質を配置することができ、ユビキチンの転移を起こりやすくしている可能性があると推測される。基質タンパク質のこういう配置変えがどの位の規模で起こるのかはまだ判っていない。しかし、ユビキチン化される部位に特異的なアミノ酸配列とかモチーフとかはまだ見つかっていないのだから、E3が作り出す何らかの空間的な制限が、特異性を決定するのに重要な役割を持つのではないかとPavletichらは考えている。

doi:10.1038/fake550

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