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リン酸化が重要なわけ

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2002年3月1日

細胞周期のS期について、研究者の頭を悩ませていることの1つは、複製に関わるタンパク質のリン酸化が一般的にDNA複製を活性化させると考えられているにもかかわらず、リン酸化が生物学的な意味でどういう効果を及ぼすのかがなかなか判らないことである。しかし、ArakiらはNatureに掲載された論文で、出芽酵母では複製に関わるタンパク質であるSld2がサイクリン依存性キナーゼ(Cdk[not CDK])によってリン酸化されること、そしてこのリン酸化が染色体のDNA複製に必須であることを示すいくつかの証拠を報告している。 Arakiらは、染色体DNAの複製の初期段階に必要とされるSld2に着目した。それは、Sld2は、Cdk[not CDK]によってリン酸化されやすいモチーフを6個持っており、これらモチーフのどれに変異が起きても致死的となるからである。[Is it alright? In the original paper, it is described that "these (sld2-3 and sld2-4) mutations are "synthetically lethal with the dpb11-1 mutations"] Arakiらは、Sld2のゲルシフト法による解析を行って、Sld2がリン酸化されることを実証した。移動度の低下したタイプのSld2はS期の開始時から出現するが、その後に続くS期の前にほとんど見られなくなり[OK??]、またホスファターゼ処理により消失した。in vitroでのキナーゼに関する分析で、Sld2がp13SUCI結合プロテインキナーゼ、および精製されたヒトCDKキナーゼによってリン酸化されたため、Sld2はS期Cdk[not CDK]群によってリン酸化されると考えられた。p13SUCIは、出芽酵母ではCdkの触媒サブユニットであるCdc28に特異的に結合する。細胞中のS-Cdkキナーゼ活性を阻害すること、またS期サイクリンであるClb5やClb6を欠く細胞を作出することにより、in vivoでも同じような機作でリン酸化が起こっていることが示された。 しかし、このSld2のリン酸化は、細胞の成長や染色体DNA複製にとって重要なものなのだろうか。この問題を調べるために、ArakiらはCdk[not CDK]によりリン酸化されやすいモチーフ中に変異が起こっている細胞を作出した。6つあるモチーフのどれか1つに変異が起こっている対立遺伝子は、野生型遺伝子と置き換え可能であったが、6つの部位全部に変異が起こっている対立遺伝子(All-A)は野生型遺伝子の代用にはならなかった。つまり、これらのモチーフの機能は重複していることが示されたのである。All-A変異体でのタンパク質含量は、野生型の場合、あるいはモチーフ1つに変異の起こっている場合のタンパク質量と同じだったが、野生型の細胞中で発現されたAll-Aタンパク質はS期にも電気泳動度の低下を示さなかった。このことは、S-Cdkに依存して起こるSld2のリン酸化が、細胞の成長に不可欠であることを示唆している。 染色体DNAの複製が起こるためには、Sld2はDpb11と複合体を形成しなくてはならない。そこで著者らは、Sld2のリン酸化がこの過程に不可欠かどうかを調べることにした。免疫沈降法を使って、Sld2-Dpb11複合体は主としてS期に形成されることが明らかになった。細胞抽出液からホスファターゼ阻害剤を除去したり、Sld2の代わりにAll-A変異体タンパク質を導入すると複合体は形成されなくなった。All-Aタンパク質では複合体が形成されないことから予想されるように、All-A変異株では成長障害が起こるが、これはSld2の濃度を上げることで抑制された(複合体形成ができないSLD2遺伝子変異体はすべて、DPB11の数を増やすことで障害が抑えられる)。 というわけで、Arakiらは、この結果はSld2のリン酸化が染色体DNAの複製に必須であることを示していると考えている。分裂酵母でのSld2相同タンパク質と考えられるdrc1のリン酸化もまた、細胞成長とDNA複製に必須らしいので、分裂酵母でも状況はおそらく同じなのだろう。

doi:10.1038/fake549

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