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新発見のシグナル伝達阻害因子

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2002年1月1日

発生の際には、どんな生物においても分化を誘導するためにいろいろなシグナル伝達経路が活性化される。このようなシグナル伝達経路は厳密に管理・調節されている。そして、そこには通常負のフィードバック経路が関わっていて、個々の経路に特異的に働くアンタゴニストが使われている。1990年代には、Sprouty遺伝子の産物が、繊維芽細胞増殖因子(FGF)の関わるシグナル伝達経路を阻害することが突き止められた。今月のNature Cell Biologyには、Sef分子(発現の仕方がFgf遺伝子に似ているために(similar expression to Fgf、頭文字をとってこう呼ばれる)の産物がゼブラフィッシュでFGFの関わるシグナル伝達を特異的に阻害することが報告されている。 FGFタンパク質群は細胞の増殖、分化、遊走や胚のパターン形成を制御する増殖因子である。FGF8は、ゼブラフィッシュ胚の初期発生で特定の役割を持っており、Ras/Raf/MEK/マイトジェン活性化型プロテインキナーゼ(MAPK)経路を活性化することで背腹方向のパターン形成を調節している。この経路が活性化されると、骨形成因子(BMP)の発現が抑制されるのだが、BMPはこの後で背腹方向の極性の調節に関わる。 Igor Dawidら、Christine Thisseらの2グループは、いずれもゼブラフィッシュ胚のDNAライブラリーと、in situハイブリッド形成法によるスクリーニングを組み合わせて使って、SefがFGFシグナル伝達系の修飾因子であることを見出した。sefは、他の生物種のタンパク質と相同の膜貫通型タンパク質をコードしており、このタンパク質は保存されたチロシンリン酸化ドメインを持っていると考えられる。この保存されているチロシン残基が、活性型sefから下流にシグナルを伝達するのに必要とされる機能を持っているらしいが、この保存されているアミノ酸配列の役割は詳しくはわかっていない。 sefの発現はFGF8により正の調節を受ける。遺伝子注入胚中でFGF8が過剰発現されるとsefの発現ドメインの拡張が引き起こされるが、FGF8の機能を欠くacerebellar変異体、あるいはFGF受容体の優性ネガティブ型が過剰発現している胚では、sefの発現が低下する(図参照、sefの発現パターンを示す)。 Dawidら、Thisseらは共に、sefを異所的に発現させてみているが、こういうゼブラフィッシュの胚では背腹方向の極性が失われた。この結果は優性ネガティブ型FGF受容体の発現により誘導される表現系と同様に、SefがFGF信号伝達を阻害していることを示している。sefのモルフォリノ修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドを使うと、FGF8を異所的に発現させた際に誘導される背側化した表現型に似た胚が作られるが、このこともまた、SefがFGFシグナル伝達のアンタゴニストとして働いていることを示している。 Thisseらはさらに、sefが発現されると、MAPKシグナル伝達系が破壊されることを明らかにした。Dawidらも、免疫反応によりFGF受容体がSefと共に沈降性抗体を作ることを確かめた。こういう相互作用には、Sefの細胞内側にあるドメイン(保存されているチロシン残基が含まれる)が必要とされる。Sefの機能する仕組みはまだはっきりしないが、これら2つの研究はFGFシグナル伝達経路の新しいアンタゴニストを突き止めたわけである。

doi:10.1038/fake547

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