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細胞接着とRap1の役割

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2002年4月1日

小型のGTPアーゼであるRap1はショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の形態発生を調節することが知られているが、Rap1がどういう機構によって調節を行うのか、それはまだ分かっていない。Rap1は当初、Ras1のシグナル伝達を拮抗阻害する働きがあると考えられていたが、その後の研究によりRap1に突然変異が起こると、Rasが仲介するシグナル伝達経路に影響が及ぶというより、細胞の形が変化したり、細胞の遊走の中断・混乱が起こることが明らかにされた。最近、Science誌に掲載された論文で、KnoxとBrownは、Rap1はおそらく接着結合(アドヘレンスジャンクション)に関わるタンパク質の位置を調節することにより、細胞の形態や遊走の調節を行っているらしいと報告している。 ショウジョウバエの翅の発生における上皮細胞のふるまいの研究から、KnoxとBrownは、Rap1に変異が生じた細胞のクローンは、その位置にまとまって留まることがなく、多くの場合2つあるいは4つが組となって、周辺の野生型の細胞中に分散移動していくことを見出した。Rap1変異細胞の形は、普通に見られるような六角形ではなくなり、野生型細胞に比べて頂端面の面積が減少することを考え合わせると、Rap1は頂面を介して行われる細胞と細胞の接着を調節していることを示していると思われた。 KnoxとBrownは次いで、Rap1変異細胞の頂端表面にあって、接着結合を作っているDE-カドヘリン、α-カテニン、β-カテニンについて調べ、変異細胞ではこれらの大部分が細胞の片側によって局在して、接着結合タンパク質のクラスターを形成していることを見出した。隣接している野生型の細胞ではこのようなことは見られなかった。おもしろいことに、細胞骨格連結タンパク質であるAF6/canoe(活性化したRap1が結合する)、とZO-1(AF6/canoeとα-カテニンの両方が結合する)もやはり配置が異常になっていた。このことはZO-1が接着結合タンパク質とRap1とを連結している可能性を示している。これとは対照的に、Rap1の機能が失われても中隔接着に関わるタンパク質には影響が見られなかった。また、DE-カドヘリンとβ-カテニンについて、Rap1変異体細胞の頂端-基底軸に沿った配置には異常が見られなかったので、Rapは頂端部細胞の周縁部に存在する接着結合の分布に特異的に影響を与えているらしいと考えられた。 では、DE-カドヘリンのような接着に関わる分子が正しく配置されないことは、Rap1変異型細胞が周辺の細胞中に分散移動していくことの原因となるのだろうか。接着構造のちがいによって細胞が選別される例は他にもある。そこで、KnoxとBrownは、Rap1変異細胞同士の接着よりも、変異細胞と野生型細胞の間の接着の方が強いことが原因で、数個のRap1変異細胞のグループが、周りを囲んでいる野生型細胞の中にどんどん「引っ張り込まれ」ているのではないかと考えた。さらに、分散移動をしない細胞中でも接着結合タンパク質の配置は異常であった。つまりこれは、細胞の分散移動という表現型は接着結合タンパク質の配置が異常である結果であって、その逆ではないことを示している。 緑色蛍光タンパク質(GFP)-Rap1融合タンパクを使ってさらに詳しく調べたところ、GFP-Rap1は接着結合部分に極めて濃縮された形で存在していることがわかった(これは、Rap1、ZO-1およびAF6/canoeの間に結合があるという考えと矛盾しない)。著者らはまた、GFP-Rap1は細胞分裂の間には細胞表相全体にわたって存在しているのに対し、分裂が進んで姉妹細胞が形成されると、細胞間の接着部位に一時的に高濃度で存在するようになることを見出した。 これらの知見に基づいて、KnoxとBrownは、Rap1が接着結合部位に局在するのは、接着結合タンパク質をそこに保持するためにも必要だからではないかと考えた。Rap1が無いと、分裂中の母細胞を取り囲む接着結合の「帯」は、細胞質分裂過程の間にもう一度閉じられなくなり、その結果としてはね返るように一カ所に集まって、タンパク質のクラスターを作り出すのかもしれない。従って、Rap1が接着結合の形成される位置を調節することにより細胞の変形に関わっていることは可能だと考えられる。

doi:10.1038/fake546

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