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新しい停止信号

Nature Reviews Neuroscience

2005年12月1日

哺乳類成体の中枢神経系(CNS)における軸索再生障害の一因は、中枢神経系ミエリンやグリア瘢痕に随伴する分子の阻害作用であるが、その背後にある細胞内シグナル伝達メカニズムは解明されていない。このほどKoprivicaたちは、Scienceに発表した論文の中で、再生の阻害には上皮成長因子受容体(EGFR)の活性化が関与しており、EGFR阻害剤が、損傷した視神経繊維の有意な修復を促進する効果を有することを明らかにした。

ミエリンやグリア瘢痕が、軸索の成長を強力に阻害する作用は、培養実験で容易に調べることができる。ミエリンあるいはグリア瘢痕の活性成分であるコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)の中で培養されたニューロンは、対照条件下で培養されたニューロンと比べて、神経突起の分枝が少なくなるのだ。Koprivicaたちは、この簡単なアッセイを使って、既に詳細に解明されている約400種の低分子のスクリーニングを行い、ミエリンやCSPGの阻害作用を逆転させる能力があるかどうかを調べた。

ラットの小脳顆粒細胞と後根神経節(DRG)ニューロンを単離して、ミエリンまたはCSPGの中で培養し、その際にEGFRキナーゼ阻害剤(AG1478、PD168393、タルセバなど)を添加した実験では、意外なことに、神経突起の伸長が促進された。さらに、EGFRのドミナントネガティブ変異体を発現するDRGニューロンの軸索の成長がミエリンまたはCSPGによって阻害されなくなった。このことは、EGFRキナーゼ活性が再生の阻害に関与している可能性を示している。

そこでKoprivicaたちは、血清を欠乏させた小脳顆粒ニューロンを使って、EGFRのリン酸化に対するミエリンの影響を調べた。すると、ミエリン随伴性阻害タンパク質であるNogo66とオリゴデンドロサイトミエリン糖タンパク質の双方が、急速な EGFRのリン酸化を引き起こした。この作用は、受容体複合体の一般的なリガンド結合要素であるNgRのドミナントネガティブ変異体を過剰発現するニューロンには見られなかった。このことは、NgRあるいはその機能的相同体がEGFR活性化に必要である可能性を示している。

EGFR阻害剤はin vivoでの神経修復に影響を与えるのだろうか? この点を検証するため、Koprivicaたちは、成体マウスの視神経を損傷し、その直後にPD168393を含ませたゲルフォームを損傷部位に塗った。その2週間後、EGFR阻害剤で治療されたマウスと対照マウスを比較したところ、前者の軸索は大きく成長し、損傷部位から0.25μm以上再生した繊維の数は、後者の9倍に達した。

この意外な発見は、脊髄損傷やその他のCNS損傷の患者にとって重要な治療的意義がある。EGFR阻害剤の1つであるタルセバが肺癌治療薬として米連邦医薬品局の承認を受けたため、神経修復に対する有効性が、まもなく臨床試験で検証されるかもしれないのだ。

doi:10.1038/fake540

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