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「洗脳」による治療の試み

Nature Reviews Neuroscience

2005年11月1日

回復中の薬物中毒患者が、薬物用具やそのほか薬物の使用を思い出させるものを見ると、薬物に対する強烈な欲求や中毒症状の再発が起きることがある。このほど発表された2件の研究論文では、ラットを使った実験で、コカイン使用と関連性のある記憶を阻害することが可能で、このような治療法によって、薬物探索行動が大きく減ることが報告されている。

いずれの研究も、ある形式の記憶を想起させると、記憶の再固定化と呼ばれる能動的な「再ファイル化」過程が生じるという学説がベースとなっている。この過程が阻害されると、記憶は薄れ、失われてしまうこともある。

Leeたちの研究では、鼻で突付くとコカインを自己投与できるようにラットを慣らし、コカインに強く依存するようにさせた。次にラットに、鼻を突付くこと、コカインの注入、ライトの点灯との関連性を学習させた。そして、「再活性化」セッションが行われ、鼻で突付いてもライトが点灯するだけになった。このセッションに先立ち、Leeたちはアンチセンス・オリゴデオキシヌクレオチドを扁桃体に注入してZif268遺伝子の転写を抑制した。Zif268は、記憶の再固定化に関与している。数日後、ラットは同じテスト室に入れられた。今度は、テスト室内には2本のレバースイッチが用意され、その1本を押すとコカイン使用と関連性のあるライトが点灯し、もう1本を押しても何も起こらなかった。アンチセンス処理されたラットが、このライトを点灯させるレバーを押す回数は、対照群と比べて有意に少なかった。

MillerとMarshallの研究では、条件付け場所嗜好性モデルが用いられた。このモデルでは、コカインが提供されるテスト室とコカインの報酬効果の関連性を学習したラットは、そのテスト室でコカインが提供されなくなっても、そのテスト室に居続ける傾向を示す。興味深いのは、今回の研究で、この現象と側坐核でのERK、CREB、ELK1(ETS癌遺伝子ファミリー)とFosの活性化とが関連しており、側坐核の外殻での活性化とは関連していないことが判明した点だ。側坐核は、薬物探索行動の誘発と維持に関与しているが、側坐核の外殻は薬物の一次報酬効果に関与している。ERK経路の阻害物質であるU0126を側坐核に注入すると、ERK、CREB、ELK1、Fosの活性化、そしてコカインと関連するテスト室に対するラットの嗜好性のいずれも阻害される。

この阻害物質が投与された時に想起されるのは薬物と関連した記憶だけのため、その結果生じる記憶の消失は、すべての記憶全体に及ぶのではなく、薬物関連の記憶のみに特異的である可能性がある。今回の2つの研究によってもたらされた知見は、薬物中毒患者の回復に役立つ新たな方法を示唆するものかもしれない。

doi:10.1038/fake539

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