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渡りの方向と光の関係

Nature Reviews Neuroscience

2005年10月1日

移動性動物は、さまざまなメカニズムを使って地球の磁場を感じとって帰巣や進路決定を行う。Wolfgang Wiltschkoの研究チームがCurrent Biologyに発表した研究論文では、渡り鳥に明るい単色光を当てたところ、ロブスターやサケが用いている方法で磁気による方位決定をするようになったと記述されている。Current Biologyの同じ号に掲載された別の論文では、磁気的な手がかりを使って方位を決定できるようにニワトリを訓練できるという興味深い知見が報告されている。

動物によっては、体内に磁気コンパスがあるが、主として2種類の磁気コンパスがある。1つは鳥類やウミガメが使っている「伏角コンパス(inclination compass)」で、地表に沿った方位としての「極向き」を決定する。この場合、磁場の垂直成分と重力ベクトルがなす角度は最小となる。これに対して、ロブスターやサケが使っている「極性コンパス(polarity compass)」は、磁場の水平成分を使って、北の方角を判定する。

伏角コンパスは、光を吸収する際に網膜の特殊感光色素が誘発する複数の磁気感受性の化学反応が関係していると考えられている。このような化学反応は、磁場の変動によって影響を受けることがあり、その結果、ニューロンの活動が影響を受けることがある。

Wiltschkoたちの最初の研究では、渡り鳥のコマドリが方位を決定する能力が、異なる強度の光によってどのように影響されるかの解析が行われた。地元の地球磁場においてターコイズ色の弱い光を浴びたコマドリは、通常の渡り行動を見せ、秋には南に向かって移動し、春は北に向かって移動した。これに対して、ターコイズ色の強い光を浴びたコマドリは、春も秋も北に向かって移動する傾向を見せたのだった。

この発見が意外なものだったため、Wiltschkoたちは、磁場を操作し、強い光を当てた時のコマドリの方位決定メカニズムを解明しようと試みた。結果は興味深いものとなった。磁場の水平成分を逆にしたところ、コマドリの渡りの方向が逆転したが、垂直成分を逆にしても、このような結果にはならなかったのだ。これは、コマドリが極性コンパスに切り替えた可能性を示している。

この仮説の正当性は、伏角コンパスに影響を与えることが知られる振動磁場にコマドリを置いて弱い光を当てたところ、コマドリは方向感覚を失ったが、強い光を当てた場合には、いったん定まった方向への飛行を変えなかったという実験結果によっても裏づけられている。Wiltschkoたちは、コマドリ鳥類が、条件に応じて少なくとも2種類の磁気感知メカニズムを使い分けている可能性がある、と結論づけた。

鳥類は生まれながらに方位決定システムを備えているが、これまでのところ、実験室内で餌を使って鳥類を特定の方向に移動させるように訓練することに誰も成功していない。Wiltschko et al.の2本目の論文では、鳥類が自然界で食物を見つけるために磁気信号を使っていないため、磁気的な刺激を使った実験に反応しなかったのではないか、と推測している。その代わりにWiltschkoの研究グループは、あらかじめ隠しておいた社会的報酬を家禽に探し当てさせる訓練を行い、実験区域内での方位決定能力が磁場の影響を受けることを発見した。

第2の論文では、鳥類における磁気コンパスの条件反応が初めて実証されており、磁気的手がかりを使った方位決定能力が、数千年間の家畜化を経ても失われなかったとする見解が示されている。

doi:10.1038/fake538

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