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ALSの治療法としてのRNAi

Nature Reviews Neuroscience

2005年4月1日

RNA干渉法(RNAi)を病気の治療に利用するという考え方が勢いを増している。Nature Medicineの4月号に掲載される2本の研究論文では、RNAiによって筋萎縮性側索硬化症(ALS)の動物モデルにおける病状の進行を抑えられることが明らかにされている。ALSは致死性の神経変性疾患で、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンがともに冒される。

RNAiは、転写後に遺伝子サイレンシングを行うためのメカニズムで、低分子干渉性RNA(siRNA)を使って行う。siRNAとは19〜23塩基長の二本鎖RNAで、特定のmRNAの切断を促進する。RNAiの場合、siRNAを発現するレンチウイルスベクターを使うと、遺伝子を長期間にわたってノックダウンさせることができる。Raoul et al.とRalph et al.による2つの論文に記された研究において、研究者は、マウスの体内で発現したヒトスーパーオキシドジスムターゼ1遺伝子(SOD1)の変異型をRNAiによって抑制できないかどうかをそれぞれ独自に調べた。家族性ALSは、SOD1の変異型と関連性があり、SOD1変異型を過剰発現するマウスには、運動ニューロン死や運動機能障害といった家族性ALSの特徴が見られる。

いずれの研究でもレンチウイルスベクターを使ったRNAiの導入によって、ALSの発症と進行が大幅に遅れたことが明らかになった。培養されたin vivoSOD1変異型も、生体内のSOD1変異型も、RNAiによって発現量が減少し、脊髄や脳幹での運動ニューロン死が起こらなくなり、複数の行動課題におけるマウスの運動成績が改善した。これに加えて、Raoulたちは、マウスの筋電図上での応答を測定し、レンチウイルスベクターによるRNAi導入を行ったマウスの場合に測定値の変動がなかったことが判明した。

siRNA といった、SiRNAを治療に応用する研究では、当初、流体力学的送達法、脳内注入などの治療方法としての有効性に限界のあるベクター送達方法が用いられていた。より最近の研究論文では、ベクターの投与方法がさらに重視されており、RNAiを治療に使うという考え方が信憑性を増している。この点で、Ralph et al.の論文には、特に説得力がある。Ralphたちは、筋肉注射によるレンチウイルスベクターの送達のように病気の治療に明らかに役立つ方法を使っているからだ。

この2つの論文で報告された治療上のメリットは、これまでのマウスモデルによる研究の中で最も顕著な部類に属し、臨床現場での有効活用への期待を高めている。しかし、家族性ALSがALSの臨床例全体に占める割合は非常に小さいため、家族性ALSにも孤発性ALSにも使える治療方法の開発が、非常な急務となっている。

doi:10.1038/fake532

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