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ハーブを使った治療法

Nature Reviews Neuroscience

2005年3月1日

アフリカ産の低木から抽出されたイボガインは、アルコール中毒患者や薬物常用者がアルコールや薬物をやめようとする際に役立つと長い間考えられてきたが、幻覚症状のような副作用があるために、市販されずにいた。このほど発表された研究では、このイボガインの中毒抑制効果の原因となる分子経路が特定された。これにより、好ましくない副作用を生まない新薬を開発して、患者を中毒症状から回復させる道が開けるかもしれない。

D Y HeたちがJournal of Neuroscience誌に発表した論文では、アルコールを自発的に摂取するように訓練したラットにイボガインを全身投与する実験において、ラットのアルコール摂取量が減ったことが報告されている。この治療法は、一定期間の禁酒を経た後に再びアルコールを摂取させるという再発モデルのラットでも効果があった。アルコール中毒患者の脳内では、「報酬」回路の主要領域の1つである腹側被蓋核(VTA)が変質していることから、Heたちは、ラットの腹側被蓋核にイボガインを注入する実験も行ったが、これによってもアルコール摂取が抑制された。

それでは、イボガインは、どのようにしてアルコールの報酬効果を妨げるのだろうか?これまでに、コカインやモルヒネをラットに長期投与する実験で、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)経路の活性が低下し、腹側被蓋核へのGDNF注入によって、これらの薬物による行動変化を阻害できることが判明していた。Heたちの研究では、イボガインの全身投与によって、腹側被蓋核を含む中脳ドーパミン作動性領域におけるGDNFのmRNAの発現量が増えることがわかった。

ドーパミンは報酬と常に関連する重要な神経伝達物質であることから、Heたちは、ドーパミン作動性の神経芽細胞腫細胞系の1つを使って、イボガインによって活性化される下流側のシグナル伝達過程について調べた。その結果、イボガインはGDNFのmRNA発現量の増加を誘発し、そのためにGDNFの分泌量が増え、マイトジェン活性化プロテインキナーゼのような下流側のシグナル伝達分子の活性が上昇することがわかった。特に重要なのは、GDNFを腹側被蓋核に注入したところ、ラットのアルコール摂取量が減ったことと、アルコール摂取に対するイボガインの影響が、抗GDNF中和抗体によって大幅に減少したことだ。

Heたちの研究は、イボガインがアルコール摂取を抑制する効果があることとGDNFとの間に直接的な関連性があることを明らかにしている。したがってGDNF経路を活性化させる薬剤が開発されれば、薬物やアルコールの依存症患者の治療に役立つかもしれない。

doi:10.1038/fake531

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