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結果を考えた上で意思決定するということ

Nature Reviews Neuroscience

2003年10月1日

「何をするにせよ、行動する前にそれが何をもたらすかを考えられるようになりなさい。」生まれてこのかた、こんな言葉を何度耳にしたことだろうか。自分の行動の結果を予測できること、そしてその結果が望ましいかどうかを判断できることは、私たちが正常に機能していく上で極めて重要だ。ところで、このほど発表された研究論文では、ラットが道具的条件づけ課題において行動と結果との特定の関連性を利用できるかどうかにとって、縁前方の皮質視床回路が極めて重要だとする学説を裏づける証拠が示されている。 Corbit et al. の研究では、この課題を行う際に関与する2つの視床核の役割を区別することを目指した。視床背内側核は、前頭前野の縁前方部分を含む回路の一部であるのに対して、視床前核は海馬とむすびついている。これまでの研究では、背内側核に病変があると、道具的行動が影響を受けることが示唆されていたが、その一部のケースでは前核にも病変があった。このことと前核を含む海馬回路が一部の学習活動にとって重要であるという証拠とを合わせ考えて、行動結果学習の障害は背内側核の病変自体ではなく、前核の病変が原因となっている可能性があるという主張がなされた。Corbit et al. に示された新たな研究データによれば、原因は前核ではなく、視床背内側核であることが確認されている。 視床前核に病変のあるラットは、全ての試験項目で機能は正常だった。これに対して背内側核に病変のあるラットには、特定の機能障害が見られた。ペレット状の餌とスクロース飲料がそれぞれ得られるレバーを押すことは学習できたが、結果の操作について対照群のラットほど敏感でなかったのだ。例えば、このような学習をしたラットに欲しがるだけ餌を与えたのちに試験を行えば、通常はペレット状の餌が得られるレバーを押す回数がスクロース飲料が得られるレバーの回数よりも少なくなるはずだ。背内側核に病変があるラットの場合、このような満腹感によって一方の報酬の価値が下がるという特定の結果に対する感度が低下していた。 次に、特定のレバーを押すと特定の報酬が得られるという関係をなくして実験が行われ、どちらのレバーをどのようなタイミングで押しても、それとは無関係に、いずれかの報酬が与えられるようにした。病変のないラットと視床前核に病変のあるラットは、報酬を受けるのにレバーを押す必要がなくなると、レバーを押す回数が減ったが、背内側核に病変のあるラットは両方のレバーを共に同じ回数押し続けた。 対照実験では、背内側核に病変があっても、ラットは、2種類の報酬と2つのレバーをそれぞれ区別できることが判明した。このため、背内側核の病変の影響は、むしろ行動と結果の関連に関する情報を学習し、利用する能力が損なわれる点に現われると考えられる。縁前方の大脳皮質に病変があっても同じような影響が見られ、このことは、この種の課題における行動−結果学習に縁前方−背内側の回路が関与していることを裏づけている。

doi:10.1038/fake519

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