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自己抑制

Nature Reviews Neuroscience

2003年4月1日

自己シナプスとは、ニューロン上に形成されるシナプスのことだ。脳に自己シナプスが存在することを示す構造的な証拠は既に見つかっているが、自己シナプスがニューロンの機能に影響するのかどうか、もし影響するのであれば、どのように影響するのかという点は解明されていなかった。このほどThe Journal of Neuroscienceに新たなデータが発表され、介在ニューロンの一部によって自己シナプス結合が起こり、大脳新皮質における抑制作用に影響を及ぼすことが示された。

Bacci et al.の研究では、大脳皮質の切片に含まれる複数のタイプの介在ニューロンについて電気活動が記録され、高頻度で発火する介在ニューロン(FS介在ニューロン)の上に抑制性シナプスが形成されることが判明した。そしてFS介在ニューロンを脱分極させたところ、このニューロン上で活動電位の直後にGABA(γ-アミノ酪酸)作動性のシナプス電流が発生した。それでは、この電流は、正真正銘、自己シナプスの活動によって発生したのだろうか?

電流の潜時が短ければ、その電流が自己シナプスの活動によるものであることが端的に示されていると考えられる。これに対して、Bacciたちは、GABA作動性の電流が自己シナプスによって発生したのであれば、同じニューロンにおいて伝達物質放出を妨害すれば、この電流が遮断されるはずだと考えた。そこでBacciたちは、FS介在ニューロンにカルシウムキレート剤BAPTAを注入したところ、電流は消滅した。しかし隣接する他の介在ニューロンによって引き起こされたGABA作動性の電流は影響を受けなかった。

それでは自己シナプスの機能とは何なのだろうか?

1つの手がかりは、Bacci et al.の研究で実施された実験にある。この実験では、FS介在ニューロンを2度立て続けに脱分極させ、自己シナプスが活動すると、第2の刺激による活動電位誘発効果が変化するかどうかを調べた。そしてGABAアンタゴニストによって自己シナプス伝達を遮断したところ、第2の脱分極が活動電位を誘発する効果が高まった。このことは、自己シナプスによって新皮質で一種のフィードバック抑制が起こっている可能性を示している。また自己シナプスの活動には、介在ニューロンの発火の反復を抑制する効果があることも判明した。すなわちFS介在ニューロンが発火を繰り返す状態にしておいて、GABA作動性伝達を阻害したところ、発火頻度が上昇したのだった。

以上の結果は、自己シナプスが単なる痕跡構造ではなく、抑制作用に実際に影響を与えていることを明らかにしている。今後は、今回発見されたフィードバック抑制の新しい形態が、周期的活動、神経回路網の周期的変動、その他介在ニューロンの活動を伴う大脳皮質での発火パターンにどのように影響するのかを調べることが重要となろう。

doi:10.1038/fake514

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