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「二連銃」構造の解明

Nature Reviews Neuroscience

2002年2月1日

ClC型塩素イオンチャネルは、陰イオン選択性チャネルの一種で、生体内で広範に見られる。ClC型チャネルの重要性は数多くの事例によって浮き彫りになっている。例えばClC-1の変異は筋強直症の原因であり、ClC-5が欠損するとデント病(尿タンパク値が異常に高くなる腎臓疾患)が起こる。ClC-3は、神経系のシナプス小胞で発現するのが通常だが、マウスにおいてClC-3を欠損させると、網膜や海馬に変性が見られた。 ClC型チャネルの構造を解明する研究では、他のチャネルに関する研究の場合と同様、チャネルを広範に変異させた上で電子顕微鏡による観察が行われた。ところが数種類の陽イオンチャネルの場合とは異なり、ClCを含む陰イオンチャネルは、いずれも結晶構造解析ができていなかった。今回発表されたR Dutzlerたちの研究では、2種類の原核生物におけるClC型チャネルの結晶構造が解明された。この研究データは、これらのタンパク質の構造をこれまで以上に詳細に示しており、従来の生物物理学的研究成果のいくつかを説明する上で役に立つ。また今回発見された構造によって、陰イオン選択性の物理的・化学的基盤の解明が一段と進むことになる。 ClC型チャネルは二量体であり、2つの小孔があると推測されている。Dutzlerたちの研究では、この推測が正しいことが確認され、それぞれの小孔が単一の単量体によって独自に形成されることを明確に示す証拠が得られた。さらにDutzlerたちは、それぞれの単量体に独特の構造があることを発見した。すなわちアミノ末端半分とカルボキシ末端半分は似た構造で、その内部には一次配列において特定されていなかった繰り返しパターンが生じている。ここで重要なのは、2つの末端半分が膜中で逆向きに配置されている点だ。すなわち両者は逆平行しており、擬似対称軸を作り出している。このような配置になっているため、1つの分子の異なった半分であるにもかかわらず、塩素イオン結合部位を形成するアミノ酸残基が近接している。ClC型チャネルの塩素イオン結合部位は、カリウムチャネルの場合と似て、その全体ではなく一部が荷電しており、陰イオンにとって好ましい静電環境になっていながら、陰イオンが小孔にあまり強固に結合しないようになっている。 このように塩素イオン結合部位を特定した上で、Dutzlerたちは、伝導経路であるグルタミン酸残基の側鎖で別の負電荷を発見した。彼らは、伝導が起こるためにはグルタミン酸残基が移動しなければならないと考え、塩素イオンが小孔へ入ることによって、このような構造の再編成が誘発される可能性があると推測した。この考え方は、ClC型チャネルの開閉に塩素イオンが必要だとする従来の観察結果からすれば非常に説得力がある。 このように2つの細菌のClC型チャネルをX線構造解析した結果は、陰イオンチャネルの研究にとって実に飛躍的な進歩と言える。これによって陰イオン伝導と陰イオン選択性の理解を深めるための道が開かれ、陽イオンチャネルの作用に関する研究成果に追いつくようになるだろう。

doi:10.1038/fake505

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