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未踏の大陸への大きな第一歩

Nature Reviews Genetics

2005年10月1日

ゲノムワイドな共同研究によるマウスのトランスクリプトームの解析結果が発表され、転写の程度と複雑さに関する重要な情報が明らかになった。

この2件の最近発表された論文には、理化学研究所を主体とした国際的研究コンソーシアムFANTOM3(「FANTOM」は「Functional Annotation of the Mouse、つまりマウス完全長cDNA機能アノテーション」の略)で得られたデータが記述されている。この研究は、まず、CAGE法(new cap analysis gene expression)とGIS(gene identification signature)、GSC(gene signature cloning)の2種類のditag技術を組み合わせて、転移開始点と転移終結点を特定することから始まった。その結果、181,047種類の転写産物について、対応する転移開始点と転移終結点の組合せが特定された。この181,047という数は、マウスゲノムの推定遺伝子数より1桁大きい。このような差が生じた原因の少なくとも1つは、ほとんどの転写ユニットが選択的プロモーターやPolyA付加サイトと関係しているからだと考えられる。それに、転写ユニットの少なくとも65%には、いくつかのスプライスバリアントが含まれているのだ。

FANTOM3のデータセットに含まれているcDNAの3分の1以上は、タンパク質をコードしていないRNAに対応している。論文の著者たちは、非コードRNAが5'非翻訳領域、3'非翻訳領域ほど保存されていないが、非コードRNAのプロモーターは、タンパク質をコードするRNAのプロモーターよりも多く保存されていることが発見した。

また、ヒトとマウスのトランスクリプトームが比較され、ヒトのトランスクリプトームが同程度に複雑であることがわかった。論文の著者たちは、転写ユニットが大量に存在している一方で相互に重なり合い(overlap)が見られる点が、マイクロアレイ研究やゲノム操作研究の結果を解釈する際に重要な影響を与えることを指摘している。

FANTOM3のデータは、アンチセンス転写が従来考えられたよりも多く見られることを示している。転写ユニットの72%が、少なくとも部分的に相手方のDNA鎖上の転写ユニットと重なり合っているのだ。共発現したセンス/アンチセンスのRNAペアには、複雑で組織特異的な制御機能が見られる。興味深いことに、論文の著者たちは、このRNAペアの発現が、共に変動するケースが多いことが発見した。これは、アンチセンス転写産物がセンス転写に負の制御を行った場合に起こると予想される事態の逆である。論文著者たちは、「もしアンチセンス転写産物が、エンハンサーの転写活性を反映しているのであれば、アンチセンスプロモーターからの転写作用によって制御的相互作用が生じる可能性が考えられる」と記している。

マウスのトランスクリプトーム解析は、今後も続けられるが、トランスクリプトームの全容には意外な新発見が数多く潜んでいることが既に明白となっている。全容の解明は、始まったばかりなのである。

doi:10.1038/fake497

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