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低分子RNAによる細胞分裂の継続

Nature Reviews Genetics

2005年8月1日

細胞分裂の停止を命じるシグナルを受けても分裂を続けるという特性は、幹細胞の重要な特徴の1つだが、そうなるための過程は、謎だった。ところが、最近発表された2つの研究論文によって、低分子RNAが鍵を握っていることが明らかになった。

Zamoreたちは、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)におけるmiRNAプロセシング機構の構成要素を新たに同定した結果、この低分子RNAの役割を発見した。彼らは、dsRNA結合タンパク質Loquacious(LOQS)が、Dicer 1(DCR1)エンドヌクレアーゼによるmiRNA前駆体分子のプロセシング、ならびに反復領域をサイレンシングする低分子干渉性RNAの機能にとって極めて重要なことを明らかにした。興味深いことに、loqs変異体の雌ショウジョウバエは不妊で、卵巣が小さかった。

生殖系列幹細胞(GSC)の分裂あるいは維持を阻害する突然変異があると、GSCからの卵室(卵母細胞が生産される)の形成が阻害されるために類似の表現型が生じることが知られている。今回の研究では、loqs変異体である生後3〜4日の雌のショウジョウバエからはGSCが検出されなかったが、Zamoreたちは、卵母細胞が一部生産されていたことから、GSCが当初は存在していたと推定した。そして彼らは、LOQS機能、したがって低分子RNA産生機能が欠如している場合には、細胞死あるいは細胞分裂不能による娘細胞産生不能によってGSCが失われると結論づけた。

これに対して、Ruohola-Bakerたちの研究論文では、低分子RNAがGSC分裂に特異的な役割を果たすことが明らかにされている。彼女たちは、dcr1遺伝子が変異し、その結果としてmiRNAを完全に欠如したGSCクローンを含む卵巣を有するショウジョウバエを作出した。GSCの数に変化はなく、GSCの維持機能は損なわれていないことが示された。しかし、卵巣に含まれる発達途上の卵室の数は少なく、これもGSCから卵室を生じさせる能力に欠陥があることが示された。特にS期、G2期、M期におけるGSCの数が減っており、GSCがG1期に阻害されたことが示されている。

またRuohola-Bakerたちの研究論文では、miRNAが、通常、細胞周期阻害物質Dacapo(DAP)の発現を阻害して、GSCの細胞周期が停止しないようにしていることが明らかにされている。変異したdcr1遺伝子があると、DAP陽性のGSCの数が増え、Dap遺伝子が過剰発現すると、dcr1遺伝子変異の場合のような表現型が生じた。さらにDAPの発現レベルが低下すると、dcr1遺伝子変異による欠陥が解消された。

これらの研究は、ショウジョウバエのGSCにおいて低分子RNAが極めて重要な役割を果たしており、これによってGSCが、他の細胞が従っている細胞分裂に対する制御を回避することを示している。この低分子RNAの機能が哺乳動物の幹細胞で保存されているのかどうかを解明することが、今後の重要な研究課題と言える。

doi:10.1038/fake495

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