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Nature Reviews Genetics

2004年6月1日

構成作家がどんなに面白い漫才の台本を書き上げても、舞台上の漫才コンビのタイミングが合わなければ、観客は冷めてしまう。舞台上での笑いの「発現」と同じように代謝経路での遺伝子の発現もタイミングが合わなければ効果がないことが明らかになった。
Alon Zaslaverたちは、既に研究の進んでいるEscherichia coliのアミノ酸生合成経路(AAB)における遺伝子発現のタイミングと強度を調べた。Zaslaverたちは、遺伝子発現を調べるために巧妙な実験系を開発した。すなわち、既知のAAB遺伝子全体の約50%に相当するプロモーター領域をレポーター遺伝子(LuxまたはGFP)の上流にクローニングして、プロモーターの活性を測定するためのプラスミド(レポーター・プラスミド)を52個作り出した。そしてマルチウェル型自動蛍光計を使って、これら52個のレポーター・プラスミドにおけるプロモーターの活性を数分おきに測定した。再現精度は10%だった。
これによってZaslaverたちは、AAB経路における遺伝子発現の動態に関する複雑な論点に取り組むことができた。第1に当然のことだが、彼らは、実験用培地に含まれる特定のアミノ酸が過剰状態になると、そのアミノ酸の生合成経路にある遺伝子の発現が抑制されることを実証した。ところが、この過剰なアミノ酸を除去して、そのアミノ酸生合成経路の再活性化を調べた時、本当に興味深い結果が出たのだった。
この研究では、アルギニン、メチオニン、セリンという3つのアミノ酸実験系が詳細に検討されたが、分岐のない経路において遺伝子の発現が再活性化する順番は、経路上での遺伝子の配置の順番と同じだった。すなわち、経路上の最初の遺伝子が最初に再活性化し、2番目の遺伝子が2番目に再活性化するといった具合だったのだ。またZaslaverたちは、遺伝子機能の階層構造と遺伝子発現パターンの間にも特筆すべき相関性があることを実証した。いずれのアミノ酸の場合も、経路の始まりの部分に近い遺伝子ほど発現量の最大レベルが高かったのだ。
この注目すべきパターンを説明するためにZaslaverたちは、このように分岐のない「工場の生産ライン型」経路における酵素の産生を表す数理モデルを作成した。このモデルは、これらの経路における遺伝子発現のタイミングと強度の階層構造によって、所要時間と最終酵素を産生するために要する物質代謝コストが最小限に抑えられていることを明確に示している。経路の始まりの部分にある遺伝子の発現が高レベルで早期に起こると、当初必要とされる酵素の量が増え、アミノ酸の除去に対する応答が早くなるのだ。
Zaslaverたちの研究成果は、細菌の体内におけるアミノ酸合成の微妙な調節の解明に役立つ点だけでも興味がそそられる。今回のようにE. coliを使った見事な実験は、分子生物学や遺伝学の進歩にとって重要な意味を持つと同様にシステム生物学の進歩にとっても重要な意味を持つと考えられる。

doi:10.1038/fake484

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