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娘細胞が母細胞と異なっている理由

Nature Reviews Genetics

2002年2月1日

酵母の場合、母と娘は遺伝的に同じだ。とは言っても酵母の母細胞が有糸細胞分裂によって娘細胞になるというお話である。しかし母細胞と娘細胞との間には、いくつかの重要な相違点がある。細胞分裂によって細胞の運命決定に差が生じうるという重要な一般現象を理解する上で酵母が優れた系となっているのは、このような相違点があるからだ。Colman-Lernerたちは、Saccharomyces cerevisiaeの細胞分裂を調べることによって、娘細胞においてのみ発現する8つの遺伝子を発見し、これらの遺伝子の調節が、細胞分裂周期の最終局面におけるチェックポイントとなっているのではないかと考えている。 S. cerevisiaeの細胞分裂は、細胞から小さな芽が出ると始まり、この芽は有糸細胞分裂が終わるまで成長を続ける。そして新たに形成された娘細胞が母細胞から分離すると細胞分裂は終わる。母細胞と娘細胞のよく知られた相違点は、母細胞には「出芽痕」という細胞壁の痕跡ができ、娘細胞には「出生痕」(出芽痕ほどはっきりとしない)ができることだ。この違いは、細胞分裂の最終段階で細胞壁が分離する過程を反映したものと考えられている。CTS1は、この過程に関与することが知られた遺伝子の1つで、細胞壁を分解する酵素がコードされている。 Colman-Lernerたちの研究ではCTS1の転写反応を調べることから始め、CTS1が娘細胞においてのみ発現することが判明した。彼らは、娘細胞でのみ転写反応が起こる遺伝子がほかにもないかどうか調べるため、既発表のマイクロアレイデータを解析し、さまざまな条件下でCTS1と共に発現する26個の遺伝子を発見した。そして、これら26個の遺伝子のうち、7個が娘細胞に特異的であることが判明した。今回の研究は、マイクロアレイ実験で解決することが当初意図されていなかったような問題にもマイクロアレイデータが使えることを見事に実証している。 8つの娘細胞特異的な遺伝子(CTS1を含む)のうち、4つが細胞壁の分解に関与しており、このことは細胞壁が主に娘細胞の側から分解されることを示唆している。これが、母細胞にはっきりとした出芽痕ができる理由としてあげられる。このような細胞壁分解の調節は、細胞膜が完全に分離するまでの間、母細胞と芽を結合する細胞壁が分解しないようにする上で役立っていると思われ、これが細胞質分裂のチェックポイントの1つと考えられる。今回の研究で特に重要な点は、Colman-Lernerたちが娘細胞特異的な遺伝子の調節モデルを作り上げたことである。このモデルによれば、8つの遺伝子が3つのタンパク質(転写制御因子Ace2、プロテインキナーゼCbk1、とその結合相手Mob2)によって調節される。これら3つのタンパク質をコードする遺伝子は、いずれも他の生物でも保存されており、Colman-Lernerたちは広く見られるな非対称細胞分裂メカニズムの構築に近づいていると言えるかもしれない。

doi:10.1038/fake465

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