Research Press Release

気候:海洋鉄施肥によるエコロジカル・フットプリントの削減

Nature

2026年7月30日

二酸化炭素の捕捉戦略である海洋鉄施肥(ocean iron fertilization)を、赤道付近ではなく高緯度地域で実施すれば、環境への影響を低減しつつ、大気からの二酸化炭素除去を達成できる可能性があることを報告するモデル研究の論文が、Nature に掲載される。この知見は、鉄施肥に通常ともなう潜在的な生態学的トレードオフを軽減しつつ、二酸化炭素除去を最大化するための最適な実施方法を検討するうえでの知見をもたらす。

現在の二酸化炭素排出量は、パリ協定(Paris Climate Agreement)の、産業革命前比2℃という上限を超えると予測されている。海洋鉄施肥、すなわち、表層水に鉄を添加して植物プランクトンの成長を促進し、二酸化炭素を除去する手法は、その解決策の一つとなり得る。しかし、制御不能な藻類ブルームや水中の栄養塩の枯渇など、この戦略がもたらす生態系への影響が、これまでの課題となっていた。

Jun Yu、Adam Martinyら(カリフォルニア大学アーバイン校〔米国〕)は、海洋鉄施肥モデルを用いて、この手法の気候面での利点と生態学的トレードオフを評価した。60年以上にわたる施肥データを分析した結果、二酸化炭素の純除去量は最大で5.3ppm(parts per million;100万分の1)に達し、これは年間0.70ギガトンの二酸化炭素除去率に相当することがわかった。さらに、Yuらは、鉄施肥後に最も生産性が高い地域、すなわち、プランクトンの大発生が最も激しい地域が南大洋と赤道太平洋であることを突き止めた。この戦略における主要な生態学的課題の一つは、特に熱帯太平洋近海において、水柱から多量栄養素が枯渇することであり、これは食物連鎖をつうじて波及し、大型動物プランクトン(macrozooplankton)のバイオマスの減少につながる可能性がある。しかし、著者らは、高緯度地域で施肥を行った場合、こうした撹乱のリスクは低くなると判断した。具体的には、赤道太平洋の海洋面積の0.35%に施肥すると、大型動物プランクトンのバイオマスが少なくとも10%減少する一方、南大洋の0.2%に施肥した場合は、大型動物プランクトンのバイオマスが10%増加したと指摘している。

著者らは、南大洋での施肥が、生態系への撹乱と大気からの二酸化炭素除去との間で最良のバランスをもたらすと示唆している。しかし、海洋鉄施肥には下流への影響があり、局所的な介入であっても、本質的に局所にとどまらない影響をともなうことになると警告している。

シュプリンガーネイチャーは、国連の持続可能な開発目標(SDGs;Sustainable Development Goals)、および当社のジャーナルや書籍で出版された関連情報やエビデンスの認知度を高めることに尽力しています。本プレスリリースで紹介する研究は、SDG 13(気候変動に具体的な対策を)に関連しています。詳細は、「SDGs and Springer Nature press releases」をご覧ください。

  • Article
  • Published: 29 July 2026

Yu, J., Moore, J.K., Primeau, F.W. et al. Climate benefit and ecological cost trade-offs for ocean iron fertilization. Nature (2026). https://doi.org/10.1038/s41586-026-10795-y

News & Views: Artificial algal blooms could remove atmospheric carbon — but can they be used responsibly?
https://www.nature.com/articles/d41586-026-02126-y

doi:10.1038/s41586-026-10795-y

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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