神経科学:詳細な脳地図で、発達、加齢、機能低下、疾患を探る
Nature
2026年9月24日
ヒトの前頭前皮質領域における遺伝子発現の、現時点で最大規模の脳地図を報告する研究が、今週のNature に掲載される。Nature およびネイチャーポートフォリオのジャーナルに掲載される関連論文では、PsychADプログラムに参加した1494人の死亡ドナーの脳から得られた630万件以上の遺伝子発現プロファイルが分析されている。この研究は、ヒトの生涯にわたる前頭前皮質領域の発達過程に関する知見を提供しており、加齢、認知機能の低下、および疾患感受性の研究に役立つと考えられる。
人間の脳は、幼少期から晩年の成人期にかけて、大きな発達上の変化を遂げる。これらの変化は、認知能力、行動、および疾患への脆弱性に影響を与える。人生の各段階における遺伝子発現パターンを分析することで、脳の変化がどのように起こるのかを理解する手がかりになると考えられる。こうした分析は、正常な加齢だけでなく、神経変性疾患や神経精神疾患の発症の研究にも活用できる。前頭前皮質領域は、問題解決、計画立案、および感情調節といった主要な認知機能に関与しており、加齢にともなう機能低下に敏感であるため、研究対象に適している。この領域は、アルツハイマー病などの疾患の根底にあるプロセスを解明することを目的とするPsychADプログラムの焦点となっている。
Nature にオープンアクセスで掲載されるPsychADコンソーシアムによる論文の一つは、これまでに報告された中で最大規模の、ヒト背外側前頭前皮質に関する集団規模の単一細胞トランスクリプトームアトラスについて記述している。Hui Yangら(マウントサイナイ医科大学〔米国〕)は、乳児期から高齢期にいたる284人の神経典型的ドナーの脳から得られた130万の遺伝子発現プロファイルを評価し、遺伝子発現が時間の経過とともにどのように変化するかについての証拠を見出した。これらの変化は、発達初期における脳のリモデリングや、約24歳までの安定性と相関していた。また、その後の細胞構成の変化や、65歳以降の細胞のリプログラミングとも関連していた。著者らは、遺伝子発現の変化と、幼少期の神経細胞の回復力、および老年期の神経細胞の脆弱性との関連性も特定した。
Nature にオープンアクセスで掲載される2報目の論文では、Donghoon Leeら(マウントサイナイ医科大学〔米国〕)が、脳疾患に関連する遺伝子発現の変化に関する地図を提示している。著者らは、PsychADデータセット全体を評価した。このデータセットには、1494人のドナーから得られた630万件の遺伝子発現プロファイルが含まれる。対象には、神経典型的個人に加え、アルツハイマー病やそのほかの認知症、パーキンソン病、統合失調症、および双極性障害などの脳疾患を持つドナーも含まれていた。研究対象となった疾患はすべて、基本的な細胞機能に関連する遺伝子発現において、いくつかの類似性があるとみられる。しかし、特に認知症のさまざまな形態とパーキンソン病の間では、神経細胞の発達やシナプス機能に関与する遺伝子において、遺伝子発現の変化に著しく強い類似性が認められた。
Sanan Venkateshら(マウントサイナイ医科大学〔米国〕)による3報目のNature にオープンアクセスで掲載される論文は、脳疾患の遺伝的リスクが、ヨーロッパ系、アフリカ系、およびアメリカ系の祖先を持つ多様な集団において、特定の細胞タイプに及ぼす影響を示している。著者らは、これまで知られていなかった数千もの遺伝子と形質の関連性を見出し、保存された細胞タイプ特異的なメカニズムを特定した。また、著者らは、これらの結果が神経精神疾患および神経変性疾患の生物学的基盤に関する理解を深めるものだと結論づけている。
PsychADコンソーシアムによるそのほかの関連論文は、Nature Medicine 、Nature Genetics 、Nature Communications に掲載される。同時掲載されるNews & Viewsの中で、Jennifer Belowは、PsychADプログラムの結果が「前頭前皮質における健康状態および疾患に関連する変化を理解するためのリソース」となり、「…神経精神疾患、神経変性疾患、行動、認知、および感情的形質に関連する遺伝子の発見を促進することに幅広く寄与する可能性がある」と示唆している。
- Article
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- Published: 23 September 2026
Yang, H., Clarence, T., Scott, M.R. et al. Lifespan single-cell transcriptomic atlas of the human prefrontal cortex. Nature 657, 1003–1015 (2026). https://doi.org/10.1038/s41586-026-10271-7
- Article
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- Published: 23 September 2026
Lee, D., Koutrouli, M., Masse, N.Y. et al. Single-cell atlas of transcriptomic vulnerability across brain disorders. Nature 657, 988–1002 (2026). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09573-z
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- Published: 23 September 2026
Venkatesh, S., Kosoy, R., Wu, Z. et al. Single-nucleus transcriptome-wide association study of human brain disorders. Nature 657, 1016–1026 (2026). https://doi.org/10.1038/s41586-026-10836-6
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- Published: 23 September 2026
He, C., Li, A.Z., Hanthanan Arachchilage, K. et al. AI-based characterization of Alzheimer’s disease phenotypes from population-scale single-cell data. Nat Med (2026). https://doi.org/10.1038/s41591-025-04128-1
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- Published: 23 September 2026
Zeng, B., Yang, H., N. M, P. et al. Single-nucleus atlas of cell-type specific genetic regulation in the human brain. Nat Genet (2026). https://doi.org/10.1038/s41588-026-02733-5
News: Landmark map of human brain’s gene activity holds clues to Alzheimer’s disease and more
https://www.nature.com/articles/d41586-026-02947-x
News & Views: Vast cellular gene-expression atlas could transform how scientists understand brain ageing and disease
https://www.nature.com/articles/d41586-026-02770-4
Collection: PsychAD Consortium
https://www.nature.com/collections/jfibicjjjg
doi:10.1038/s41586-026-10271-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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