生態学:ハヤブサの渡りを解読する
Nature
2021年3月4日
Ecology: Decoding the migration of the peregrine falcon

ハヤブサが渡りに使う経路は、最終氷期以降の環境の変化によって形成されてきたことを報告する論文が、Nature に掲載される。この論文では、渡りの距離が遺伝的要因の影響を受けたことの証拠も示されている。
多くの渡り鳥は、北極に、季節的に有利な繁殖地を持っているが、冬はユーラシア各地で過ごす。一方、渡りの経路の形成、維持、将来の見通し、あるいは渡りの距離の遺伝的決定因子については、ほとんど分かっていない。
今回、Xiangjiang Zhanたちの研究チームは、ユーラシア北極圏の個体群に属する56羽のハヤブサの衛星追跡データと35羽のハヤブサのゲノムデータを組み合わせて、ハヤブサの渡りを調べた。その結果、ユーラシア大陸では5つの経路が渡りに使われており、これらの経路は、最終氷期極大期(約2万~3万年前)以降の環境の変化によって形成されたことが分かった。また、渡りの距離の長いハヤブサは、ADCY8遺伝子の優性(顕性)の遺伝型を有することも明らかになり、Zhanたちは、これが長期記憶の発達と関連している可能性があるという見解を示している。
Zhanたちは、全球の気候が変化している中で、ユーラシア西部のハヤブサは、個体数減少の確率が最も高く、新しい越冬地に渡るか、あるいは渡りを完全にやめる可能性があると提起し、生態学的相互作用と進化過程を用いて、気候を駆動要因とする渡りの変化を研究することが、渡り鳥の保全を促進するために役立つ可能性があると結論付ている。
doi:10.1038/s41586-021-03265-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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