Research Press Release

惑星科学:火星における氷と炎の物語

Nature Communications

2025年10月15日

初期の火星における爆発的な火山噴火が、水氷を赤道地域へ運んだかもしれないことを報告するモデル研究が、オープンアクセスジャーナルNature Communications に掲載される。著者らは、これらの噴火が地表下の氷堆積物が現在も存在する条件を生み出した可能性を示唆しており、これは将来の探査に向けた火星の地形に関する知見が広がることとなる。

火星の表面には豊富な氷が存在することが知られているが、氷の堆積物の大部分は極域付近に分布すると考えられてきた。しかし、赤道域での最近の観測では地表近くの水素濃度の上昇が検出されており、これは地表下に大量の氷が存在する可能性を示唆している。この予想外の地域に氷がどのように形成されたのかという疑問が生じる中で、一つの有力な説明として爆発的火山噴火があげられる。

惑星気候モデルを用いて、Saira Hamidら(アリゾナ州立大学〔米国〕)はこの仮説を検証した。火星で41億年から30億年前に発生したことが確認されている爆発的火山噴火をシミュレートし、この仮説を検証した。モデル解析によると、噴火時に放出された水蒸気が火星の低温大気中で凍結し、氷の降雪を引き起こすことで、たった3日間の噴火活動中に火星表面に最大5メートル厚の氷堆積物が形成された可能性がある。この氷は、塵や火山砕屑物の下に埋もれていれば長期間存続し得たため、現在も赤道地域の地表下に存在しているかもしれない。さらに研究者らは、火山活動期に大気中に放出された硫酸が火星を全球的な寒冷期に導き、結果として氷の持続的な蓄積をもたらした可能性も指摘されている。

これらのモデルが予測する、時間をかけて繰り返された複数回の火山噴火による環境条件は、火星赤道域で観測された地表付近の水素濃度上昇を説明し得るものであり、人類による赤い惑星(火星)の探査に示唆を与えるものである。

Hamid, S.S., Kerber, L. & Clarke, A.B. Precipitation induced by explosive volcanism on Mars and its implications for unexpected equatorial ice. Nat Commun 16, 8923 (2025). https://doi.org/10.1038/s41467-025-63518-8
 

doi:10.1038/s41467-025-63518-8

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