ゲノミクス:タンパク質は古代のエナメル質に保存されている
Nature
2025年7月10日
Genomics: Proteins persist in ancient enamel
サイやその他の動物の化石から、少なくとも1,800万年前の古代タンパク質が発見されたことを報告する2つの論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。これらの研究は、タンパク質がこれまで考えられていたよりもはるかに長い間残存しうることを示唆しており、多くの種の進化の歴史に光を当てる可能性を秘めている。
過去数十年間で、研究者たちは化石からDNAやタンパク質などの古代の分子を回収する技術を着実に向上させてきた。しかし、これらの分子は、時間とともに分解するため回収は困難で、温暖な環境はこのプロセスを加速させる。過去に回収された最も古いタンパク質は、約370万年前の鮮新世(Pliocene)のものだった。今回の2つの研究は、古代の分子をよく保存することで知られる歯のエナメル質を採取することで、その境界を広げるものである。
Daniel Green(ハーバード大学〔米国〕)、Timothy Cleland(スミソニアン研究所〔米国〕)、Kevin Uno(ハーバード大学〔米国〕)らは、ケニアのトゥルカナ盆地(Turkana Basin)からさまざまな化石を採取し、タンパク質を回収した。著者らは、最大1,800万年前のサイ類(rhinocerotid;サイの親戚)と長鼻類(proboscideans;ゾウの親戚)をサンプルとしている。東アフリカの大地溝帯にあるトゥルカナ盆地は、地球上で最も温暖な場所のひとつであり、古代の分子がそこに保存されるとは予想されていなかった。ホミニン、サイ、およびカバを含むアフリカの哺乳類の多くのグループがここで多様化したため、この場所は進化上重要である。
別の研究では、Ryan Patersonら(コペンハーゲン大学〔デンマーク〕)が、カナダの極北(Canada’s High Arctic)に生息するサイ類から、約2,100万– 2,400万年前のエナメル質タンパク質の部分配列を抽出した。この塩基配列から、サイの家系に関する新たな情報が得られるかもしれないが、さらなる解析が必要であると著者らは指摘している。また、カナダの極北のような寒冷な環境は、生体分子の保存に適しており、動物の進化を再構築できる可能性があるという。
両研究を合わせると、タンパク質はこれまで考えられていたよりも長く残存し、古代の動物に関する分子情報を保存することができることを示している。
- Article
- Open access
- Published: 09 July 2025
Green, D.R., Uno, K.T., Miller, E.R. et al. Eighteen million years of diverse enamel proteomes from the East African Rift. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09040-9
- Article
- Open access
- Published: 09 July 2025
Paterson, R.S., Mackie, M., Capobianco, A. et al. Phylogenetically informative proteins from an Early Miocene rhinocerotid. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09231-4
doi: 10.1038/s41586-025-09040-9
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