古生物学:獲物に忍び寄るための古代爬虫類の特殊なヒレ
Nature
2025年7月17日
Paleontology: An ancient reptile’s specialized fin for sneaking up on prey
イルカに似た中生代の海洋爬虫類である魚竜(ichthyosaurs)は、周囲の騒音を低減することで獲物に忍び寄ることができる特殊なヒレを持っていた可能性があることを報告する論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。この発見は、ヒレを模倣した工学的手法を用いることで、現代の騒音公害をどのように軽減できるかというヒントを与えてくれるかもしれない。
魚竜は、陸上環境から海洋環境への移行に成功した爬虫類のグループである。その際、爬虫類を模倣した体から、サメやイルカに近い体へと変化した。しかし、魚竜の軟部組織の解剖学的構造に関するこれまでの知見は、化石化された証拠ではなく、体の外形から得られたものがほとんどであった。
John Lindgrenら(ルンド大学〔スウェーデン〕)は、1億8,300万年前から1億8,100万年前に生息していたTemnodontosaurusという魚竜から、ユニークな前ヒレの化石を発見した。このヒレの化石は、ドイツ南西部のプリンスバッキアン–トアルシアンのポシドニア頁岩(Pliensbachian–Toarcian Posidonia Shale)から発掘されたもので、長さ約1メートル、鋸歯状の縁と柔軟な先端を持つ翼のような形状が特徴である。Lindgrenらは、このヒレはTemnodontosaurusが狩りをするときに使ったものだと考えている。具体的には、コンピューター流体力学シミュレーションにより、薄暗い海洋環境で獲物を狩る際に、ヒレの鋸歯が騒音を軽減するのに役立っていた可能性が高い、と著者らが提案している。
著者らは、聴覚は長い間、海洋生物の間で重要な感覚であったが、現代では、その感覚は船舶活動や軍事ソナーなどの人間活動によって妨げられていると指摘している。Lindgrenらは、Temnodontosaurusのヒレの鋸歯と表面の質感が、外洋における騒音公害を減らすための青写真となり得ると示唆している。
- Article
- Open access
- Published: 16 July 2025
Lindgren, J., Lomax, D.R., Szász, RZ. et al. Adaptations for stealth in the wing-like flippers of a large ichthyosaur. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09271-w
doi: 10.1038/s41586-025-09271-w
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