Nature ハイライト

細胞:過去を引きずる幹細胞

Nature 467, 7313

誘導多能性幹(iPS)細胞は、分化した成体細胞を数種類の転写因子により再プログラム化して作製されるが、体細胞核移植(SCNT)で作製された胚性幹(ES)細胞や自然受精した胚に由来するES細胞と、さまざまな特有の性質を共有している。しかし、この3種類の細胞は全く同じというわけではなく、1つの興味深い違いがあることがわかった。iPS細胞は、由来するドナー組織の「エピジェネティックな記憶」を保持しているが、SCNTによる再プログラム化では、成体細胞のDNAメチル化状態が初期化されるため、本来のES細胞により近い状態になる。iPS細胞に残るエピジェネティックな記憶は、疾患モデルや治療のための分化誘導の試みに影響を及ぼす可能性がある(Article p.285, N&V p.280)。別の研究でJiらは、特異的なDNAメチル化の痕跡が、特定の細胞系列の分化進行に果たす役割を調べた。造血細胞集団の全ゲノムDNAメチル化解析を行ったところ、著しいエピジェネティックな可塑性が明らかになった。DNAメチル化の変化はおそらく、骨髄系に分化するかリンパ系に分化するかといった細胞運命の選択にかかわる主要因の1つだと考えられる(Letter p.338)。

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