球状ウイルスの構造決定はこれまで、正二十面体対称構造を有するキャプシド構造のみなされていた。今回初めて、
正二十面体対称を利用した平均化(イメージの再構築計算を平易にするために必須の戦略である)を行わずに、球状
ウイルスの全体構造が決定された。対象としたウイルスは、イプシロン15バクテリオファージである。このウイルス
は、ヒトの病原体であるSalmonella anatumに感染することから、サルモネラ症の治療薬となる可能性がある。単粒子低温電子顕微鏡法により、60個の6量体と11個の5量体からなる正二十面体のタンパク質キャプシドの構造が明らかになった(表紙)。非正二十面体構造をとる構成要素は、キャプシドの12個の頂点の1つに集まっており、この頂点を通じてDNAのパッケージングと放出が行われる。ウイルスゲノムは同軸コイルの形で詰め込まれており、これまでに同定されていなかったタンパク質コアがDNAの末端周辺に巻き付いている。外殻構造はヘルペスウイルスなど、他のdsDNAウイルスと類似していることから、共通祖先の存在が考えられる。[Letter p. 612]
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