Research Press Release

気候変動:海面上昇の中でヴェネツィアを守るための戦略

Scientific Reports

2026年4月17日

今後300年間にわたる海面上昇にヴェネツィアが適応するために役立つ可能性のある4つの戦略を比較した研究が、オープンアクセスジャーナルScientific Reports に掲載される。これらの戦略には、可動式防波堤、環状堤防、ヴェネツィア潟(Venetian Lagoon)の閉鎖、そして都市の移転が含まれる。著者らは、迅速な対応が不可欠であるとしつつも、今回の知見が同市の長期的な計画策定に役立つかもしれないと示唆している。

ヴェネツィアは、ヴェネツィア潟内にあるユネスコ世界遺産であり、過去150年間にわたって洪水の頻度が増加してきた。同市の現在の洪水防御策には、潟の縁に設置された3つの可動式防潮堤が含まれている。

Piero Lionelloら(サレント大学〔イタリア〕)は、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change;気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書にもとづく局地的な海面上昇予測に対し、ヴェネツィアにおける既存および潜在的な適応戦略を評価した。著者らは、追加的な対策が実施された場合、既存の可動式防潮堤は最大1.25メートルの海面上昇に対して有効であるかもしれないと推定している。著者らは、気候変動と地盤沈下により、低排出シナリオ(SSP1-RCP2.6;SSP:Shared Socio-Economic Pathway〔共通社会経済経路〕、RCP:Representative Concentration Pathways〔代表濃度経路シナリオ〕)であっても、2300年までにこの基準値が超えられる可能性が高いと指摘している。著者らが検討した代替案には、ヴェネツィアの中心部を潟の残りの部分から隔てる堤防で保護する方法、「スーパー堤防(super levee)」で潟を閉鎖する方法、あるいは都市、住民、歴史的建造物を内陸部に移転することが含まれる。著者らは、SSP5-RCP8.5というきわめて高い排出シナリオ下では、2100年以前に発生し得る0.5メートルを超える海面上昇に対しては、堤防が必要になるかもしれないと推定している。潟の閉鎖戦略も海面上昇0.5メートルを超えて有効となり得るものであり、著者らは、これにより最大10メートルの海面上昇から都市を守ることができると推定している。さらに、著者らは、海面上昇4.5メートル超える場合には、都市の移転が必要になるかもしれないと提案しており、これは2300年以降に発生すると予測されている。

著者らは、過去の土木事業にかかった費用(2024年の物価にインフレ調整済み)を用いて、各適応戦略の潜在的な費用と実現可能性を推定した。また、著者らは、ヴェネツィアの既存の洪水防御システムの建設総費用が60億ユーロであったと報告しており、堤防の建設費用は5億ユーロから45億ユーロになると推定している。スーパー堤防で潟を閉鎖する場合、初期費用は300億ユーロを超える可能性があり、都市の移転には最大1000億ユーロの費用がかかるかもしれない。

著者らは、最適な適応戦略は存在しないと指摘している。どのような方策を採用するにせよ、ヴェネツィア住民の福祉と安全、経済的繁栄、潟の生態系の将来、文化遺産の保存、そして地域の伝統や文化とのバランスをとらなければならない。恒久的な防潮堤のような大規模な対策の建設には、30年から50年を要するため、早期の計画策定が不可欠であると著者らは警鐘を鳴らしている。

Lionello, P., Di Fant, V., Pasquier, U. et al. Long-term adaptation pathways for Venice and its lagoon under sea-level rise. Sci Rep 16, 9438 (2026). https://doi.org/10.1038/s41598-026-39108-z
 

doi:10.1038/s41598-026-39108-z

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