Research Press Release

生態学:人間の移動はすべての陸上動物を上回っている

Nature Ecology & Evolution

2025年10月28日

人間のバイオマス(生物量)の移動は、陸生動物全体の移動量の最大40倍に達する可能性があることを報告する論文が、Nature Ecology & Evolution にオープンアクセスで掲載される。同時掲載されるオープンアクセスジャーナルNature Communications の論文では、野生哺乳類のバイオマスが1850年以降で半分以下に減少しており、特に海洋哺乳類のバイオマスは約70%も減少していることが明らかになった。これらの知見は、地球規模の移動性と、時間経過に伴う動物バイオマスの構成変化に関する新たな洞察を提供する。

移動性は、動物の決定的特徴であり、採食、移動、および栄養輸送を通じて生態系を形成する。人間もまた、徒歩や飛行機、列車、および自動車などの交通手段を用いて広範囲に移動する。バイオマスの移動(体重と移動距離の積で定義)を比較することで、人間と動物の活動規模を直接評価する指標が得られる。

Yuval Rosenbergら(ワイツマン科学研究所〔イスラエル〕)は、Nature Ecology & Evolution において、近年における種横断的なバイオマスの移動を推定するため、科学文献と数百のデータ源を分析した。特定の種のバイオマスの移動は、その総バイオマスに年間移動距離を乗じた値と定義した。その結果、人間のバイオマスの移動は、陸生哺乳類、鳥類、および節足動物の野生個体群をすべて合わせた移動量の40倍以上であることが判明した。さらに著者らは、地球上で最大の野生動物移動である海洋生物のバイオマスの移動が、産業漁業と捕鯨の影響で1850年以降半減していることも明らかにした。対照的に、人間のバイオマスの移動は同期間に約40倍に増加している。

著者らは、事例研究でこれらの規模を説明している。例えばセレンゲティ(Serengeti)国立公園(タンザニア)で年間100万頭以上が移動するヌー、ガゼル、およびシマウマの移動量は、FIFA(Fédération Internationale de Football Association〔国際サッカー連盟〕)ワールドカップやハッジ(巡礼;Hajj)といった大規模な人間の集まりに匹敵する。さらに、海洋における動物プランクトンや中層魚の毎日の垂直移動は、すべての陸上動物のバイオマスの移動を超え、人間の歩行や自転車移動に匹敵する。

Nature Communications に掲載される論文で、Lior Greenspoonら(ワイツマン科学研究所〔イスラエル〕)は、地球環境の歴史データベース(HYDE:History database of the Global Environment〔HYDE〕)や国連の世界人口推計データベース(United Nations’ World Population Prospects database)など、さまざまなデータセットと推定値から、1850年以降の哺乳類におけるバイオマスの歴史的推移を推定した。その結果、野生哺乳類の総バイオマスは半分以上減少し、人間および牛と羊などの家畜化された哺乳類のバイオマスは5倍近く増加した。海洋哺乳類のバイオマスだけでも約70%減少し、これはおもにシロナガスクジラ、ザトウクジラ、ナガスクジラ、およびマッコウクジラなどの大型種の減少が原因である。

19世紀のデータ推定値は、慎重に扱う必要があるものの、この結果は特に小型種やデータ不足地域における動物の移動と生息数の監視を改善する必要性を浮き彫りにしている。バイオマスの移動の分析は、生態学的プロセスや人間の移動が環境に与える影響に関する今後の研究に有用な知見をもたらすかもしれない。

Rosenberg, Y., Wiedenhofer, D., Virág, D. et al. Human biomass movement exceeds the biomass movement of all land animals combined. Nat Ecol Evol (2025). https://doi.org/10.1038/s41559-025-02863-9

Greenspoon, L., Ramot, N., Moran, U. et al. The global biomass of mammals since 1850. Nat Commun 16, 8338 (2025). https://doi.org/10.1038/s41467-025-63888-z
 

doi:10.1038/s41559-025-02863-9

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