生態学:世界的に過小評価されている外来種のコスト
Nature Ecology & Evolution
2025年5月27日
侵略的な外来種による世界的な経済的コストは、一部の種においてこれまで考えられていたよりも1,600%以上高い可能性があることを報告する論文が、Nature Ecology & Evolution に掲載される。162種の外来種に関するデータに基づくこの研究結果は、潜在的な被害の大きさを明らかにし、各国が費用対効果の高い管理計画を立案するのに役立つかもしれない。
生物の侵入は、生物多様性、生態系サービスおよび経済に世界的な脅威をもたらし、記録された全球の絶滅の60%に寄与している。これまでの外来種による経済的コストの推計は、主にヨーロッパと北米の限られた国々から報告されたわずかなコストに基づいている。これにより、特にアフリカやアジアなどデータが不足する地域での過小評価が生じていた。
より正確なグローバルなコストの推計を提供するため、Ismael Soto(南ボヘミア大学〔チェコ〕)とBrian Leung(マギル大学〔カナダ〕)らは、162種の外来種に関する国家レベルの推計コスト(農業被害と管理コストを含む)と、これらの種が世界中で分布している地域のモデルを組み合わせた。調査対象には、ヒトスジシマカ(Asian tiger mosquito)、ニワウルシ(tree of heaven)、およびウシガエル(American bullfrog)などが含まれる。著者らは、これらの種のコストを他の国でもモデル化し、これまでコストデータがなかった78カ国(バングラデシュ、コスタリカ、キプロス、およびエジプトなど)を含む国々のコストを推計した。過去60年間における世界全体の総コストは、年間約350億ドルと推計され、これは気候変動による極端な気象現象の世界全体のコストと類似した数値である。この期間における総コストが最も高かったのはヨーロッパ(推定1兆5,840億米ドル)で、次いで北アメリカ(2,260億米ドル)とアジア(1,820億米ドル)だった。フサフジウツギ(butterfly bush)、ホテイアオイ(water hyacinth)、およびアメリカミズキンバイ(water primrose)などの外来植物は、過去60年間で最も高い総推定コスト(9,263億8,000万米ドル)をもたらしたグループだった。例えば、ブラックワトル(black wattle plant)の環境への影響は、南アフリカに推定20億米ドルのコストを発生させた。節足動物(8,302億9,000万米ドル)と哺乳類(2,633億5,000万米ドル)が次に高い総推定コストを占めた。
これらの結果は、外来種による経済的コストを国家レベルで理解を深めると共に、世界各地での外来種の影響を軽減するために地域ごとの戦略や政策の早急な策定が必要であることを明らかにしている。
- Article
- Published: 26 May 2025
Soto, I., Courtois, P., Pili, A. et al. Using species ranges and macroeconomic data to fill the gap in costs of biological invasions. Nat Ecol Evol (2025). https://doi.org/10.1038/s41559-025-02697-5
doi:10.1038/s41559-025-02697-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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