医学研究:ブタから人間への肝臓移植の評価
Nature
2025年3月27日
遺伝子操作されたブタの肝臓を脳死と診断された人間のレシピエントに移植した最初の事例を報告する論文が、Nature に掲載される。この処置は、脳死と診断された患者に対して行われ、移植された臓器の10日間の観察期間における性能を評価することを目的とした。
末期の肝臓疾患に対する最も効果的な治療法は肝臓移植であるが、ドナーの肝臓の需要は供給をはるかに上回っている。ブタは生理機能とサイズが適合しているため、代替の臓器供給源として検討されている。遺伝子編集の進歩により、ブタの臓器を改変して拒絶反応のリスクを低減し、人間のレシピエントとの適合性を向上させることが可能になった。しかし、肝臓機能の複雑性により、移植は困難である。
Hai-Long Dong、Lin Wang、Ke-Feng Douらの研究チームは、病院倫理委員会の厳格な監督下で、6つの遺伝子を編集したバマミニチュアブタの肝臓を、脳死と診断された人間のレシピエントに移植した。遺伝子編集には、拒絶反応を媒介する遺伝子の除去と、適合性を促進するためのヒト導入遺伝子の挿入が含まれた。著者らは、10日間にわたって移植機能、血流、免疫および炎症反応をモニタリングした。ブタの肝臓は胆汁とブタアルブミンを産生し、血流を安定に保ち、拒絶反応の兆候は見られなかった。免疫反応は免疫抑制剤で制御された。
これらの結果は、遺伝子操作されたブタの肝臓が人間の体内で生存し機能することを示唆しており、ドナーを待つ肝不全患者に対する橋渡し療法として役立つ可能性がある。しかし、この研究は10日間の観察期間に限定されており、測定されたのは肝臓の基本的な機能のみである。長期の結果と肝臓の全機能の範囲を評価するには、さらなる研究が必要である。
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- Published: 26 March 2025
Tao, KS., Yang, ZX., Zhang, X. et al. Gene-modified pig-to-human liver xenotransplantation. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-08799-1
doi:10.1038/s41586-025-08799-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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