動物学:ゾウの鼻に生えたヒゲが鼻の感覚を向上させている
Communications Biology
2023年6月9日
ゾウの鼻に生えている太いヒゲは、他の多くの哺乳類のヒゲのようにぴくぴく動くことはないが、物体を感じたり、鼻の上で物体のバランスを保ったりするために役立っている可能性があることが明らかにしなった。このことを報告する論文が、Communications Biologyに掲載される。ゾウのヒゲについて記述した論文が初めて発表されたのは1890年のことだったが、著者らは、今回の研究は、ゾウのヒゲの解剖学的構造を詳細に調べた初めての研究であると指摘している。
Michael Brechtらは、動物園で飼育されていて自然死したか、重篤な合併症を起こしたため獣医師によって安楽死させられたアフリカゾウ6頭とアジアゾウ8頭の鼻とヒゲを調べた。成獣(11頭)、幼獣(1頭)、新生仔(2頭)から試料が採取された。また、6週齢の雄ラットのヒゲを調べることで、ゾウと他の哺乳類のヒゲの解剖学的構造の比較研究も行われた。
Brechtらは、ゾウの鼻のヒゲは太く、頑丈で円筒形であり、その毛包には、脳が微妙なヒゲの動きを検出するのに役立つと考えられている特殊化した特徴(輪状静脈洞と輪状血液洞)が見られないことを明らかにした。これに比べて、ラットのヒゲは先細りの円錐形だった。また、今回調べたアフリカゾウの新生仔の鼻には1220本のヒゲが生えており、アジアゾウの新生仔の鼻には986本のヒゲが生えていた。アフリカゾウのヒゲもアジアゾウのヒゲも、鼻の周辺に非対称に高密度に配置されており、特に鼻先でヒゲが密集していた。アフリカゾウのヒゲは、アジアゾウのヒゲよりも太く、アフリカゾウの鼻先に生えていたヒゲの量は、アジアゾウの場合の約1.7倍だった。ヒゲの長さには、かなりのばらつきがあり、成獣の鼻では、そのゾウが好んで使った部分(鼻先の下側)のヒゲは短くなる傾向があった。その原因は、この部分のヒゲが時間の経過とともに摩耗したからである可能性が高い。
また、Brechtらは、雌のアジアゾウが箱から果物を取り出しているビデオ映像を分析して、鼻を使って果物をつかんだり、吸い取ったりしている時にヒゲが動いていないことを発見した。このことは、ゾウのヒゲが、物体を感じるために役立っているかもしれないが、ヒゲが物体に接触するかどうかは、ヒゲの独自の動きではなく、鼻の動きによって決まる可能性が高いことを示している。齧歯類やその他の哺乳類の顔面のヒゲは、この点で大きく異なっており、素早く、広範囲にわたって円を描くようにぴくぴく動かして、身の回りの環境を探索し、物体を検出する動き(ウィスキング)をするために役立っている。
Brechtらは、ゾウのヒゲが、ゾウの鼻ほど大きく動かないかもしれないが、それでもゾウが大きな物体(例えば、食料)の表面を探索したり、鼻の上で物体のバランスをとったりするために役立つ可能性があるという見解を示している。
doi:10.1038/s42003-023-04945-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
注目のハイライト
-
遺伝学:APOE4遺伝子バリアントはアルツハイマー病の他とは異なる遺伝的タイプである可能性があるNature Medicine
-
動物学:薬用植物を使って創傷治療を行う野生動物が初めて報告されるScientific Reports
-
進化学:地球の磁場が弱くなっていたために地球上の生物の多様化が進んだのもしれないCommunications Earth & Environment
-
人類学:長期的レジリエンスは苦難によって構築されるNature
-
微生物学:マウスにおけるマイクロバイオームと仔の健康との関連Nature
-
分子生物学:運動の健康効果の基礎をラットの研究で解明するNature