環境科学:安全と公正の観点を統合した「地球システムの限界」
Nature
2023年6月1日
全ての生物の安全と全ての生物の間の公正を確実に実現するために役立てることを目的として、人類が地球システムに及ぼす影響を評価する一連の尺度を提案する論文が、Natureに掲載される。今回の研究では、地球の気候と資源の回復力と安定性が維持される限界である安全な地球システムの限界(ESBs:Earth system boundaries)に公正の観点を組み入れることが、より厳しい限界の設定につながることが示されている
人類が引き起こした地球の急激な変化(例えば、気候変動、水質の低下、生態系の変化)は、地球システムを不安定化させるだけでなく、社会に重大な影響を及ぼす可能性がある。例えば、住民の立ち退き、人類に対する自然の寄与の喪失、食料安全保障の崩壊が考えられる。こうした急激な変化に対する寄与度とこれらの変化によって被る影響の程度は、社会集団や国によって異なる。地球システムの回復力と人類の幸福(well-being)は、相互に依存している。
今回、Johan Rockström、Steven Ladeらは、気候、生物圏、淡水、栄養素、大気汚染物質に関係する安全かつ公正なESBsを定量化した。安全なESBsの境界内にあれば、地球システムの安定性と回復力が長期間にわたって維持・増強される。公正なESBsは、地球システムの変化の限界であり、その境界内にあれば、人類は重大な危害(国、地域社会、個人に対する広範囲に及ぶ深刻な悪影響や不可逆的な悪影響と定義される)から守られる。著者らは、これらの基準を組み込むことで、これまでに生物物理学的限界のみに基づいて決定されたものよりも厳しい限界になることを示した。例えば、気候変動の場合、気温上昇を産業革命以前の水準から1.5℃に抑えることで、最も深刻な影響を回避することはできるが、重大な危害(例えば、人命の損失、立ち退き、食料安全保障や水安全保障の毀損)を回避できない。1.5℃の気温上昇の場合、2億人以上が記録的な高さの年間平均気温にさらされ、5億人以上が長期間にわたる海水準の上昇にさらされる可能性がある。著者らは、数百万人が重大な危害にさらされる事態を避けるには、安全かつ公正な気候限界を1.0℃以下の気温上昇と定めるべきだと提唱している。
著者らが提案した8つの安全かつ公正なESBsは、気候、自然生態系地域、生態系機能の完全性、地表水、地下水、窒素、リン、エーロゾルについて設定されている。著者らは、社会科学と自然科学の統合による独自のESBsを示して、さらなる精緻化を目指している。
doi:10.1038/s41586-023-06083-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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