惑星科学:火星の巨大津波の原因はチクシュルーブ衝突のような事象だったかもしれない
Scientific Reports
2022年12月2日
火星の巨大津波の原因について、チクシュルーブ衝突の場合に似た小惑星の衝突が浅い海洋域で起こったという見解を示した論文が、Scientific Reportsに掲載される。チクシュルーブ衝突は、6600万年前の地球で発生し、全ての非鳥類型恐竜の大量絶滅の一因となった。
約34億年前に火星で起こった巨大津波の原因について、これまでの研究では、北半球の低地の海洋域に小惑星や彗星が衝突したことという可能性が指摘されていた。しかし、この衝突によって生じた衝突クレーターの位置は、今回の研究まで明らかになっていなかった。
今回、Alexis Rodriguezたちは、過去の火星探査で撮影された画像を組み合わせて作成された火星表面の地図を分析し、巨大津波を引き起こした可能性のある直径110キロメートルの衝突クレーターを特定した。このクレーターは、かつて海に覆われていた可能性が先行研究で示唆されていた低地の推定海面から約120メートル地下の領域に位置している。Rodriguezたちは、このクレーターをPohlと命名し、その上下に位置する岩石が年代測定によって約34億年前とされていたことに基づいて、このクレーターが約34億年前に形成された可能性があるという見方を示している。
Rodriguezたちは、この地域での小惑星の衝突と彗星の衝突のシミュレーションを実施して、Pohlの形成につながったかもしれない衝突の種類を調べ、それが巨大津波につながった可能性があるのかどうかを検証した。その結果、Pohlと同じような寸法のクレーターを形成するシミュレーションで、直径9キロメートルの小惑星が地面から強い抵抗力を受けて1300万メガトンのTNTエネルギーを放出するか、直径3キロメートルの小惑星が地面から弱い抵抗力を受けて50万メガトンのTNTエネルギーを放出することによってPohlが形成されることが分かった。ちなみに過去の実験で最も強力な核爆弾だったツァーリ・ボンバは、約57メガトンのTNTエネルギーを放出した。このシミュレーションにおいて、2つの衝突のいずれの場合においても直径110キロメートルのクレーターが形成され、衝突地点の中心から1500キロメートルまで達する巨大津波が発生した。直径3キロメートルの小惑星の衝突によって引き起こされた巨大津波の分析では、陸上で約250メートルの高さまで達した可能性のあることが示された。
Rodriguezたちは、Pohlの形成につながったと考えられる衝突の影響には、地球のチクシュルーブ衝突の影響と類似している点があるという見解を示している。これまでの研究では、チクシュルーブ衝突は海面下200メートルの領域内で発生し、一時的に直径100キロメートルに達するクレーターが形成され、陸上で200メートルの高さに達する巨大津波が起こったことが示唆されている。
doi:10.1038/s41598-022-18082-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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