動物:イヌがヒトの最良の友になるまでの過程を解明する遺伝的手掛かり
Scientific Reports
2022年6月10日
ストレスホルモンであるコルチゾールの産生に関与しているメラノコルチン2受容体遺伝子の変異(2か所)が、イヌがヒトと交流してコミュニケーションをとるための社会的認知能力の発達と関連しており、イヌの家畜化に何らかの役割を果たした可能性のあることが明らかになった。こうした知見を報告する論文が、Scientific Reports に掲載される。
通常は社会的行動に影響するホルモンを制御している複数の遺伝子の変異がイヌの家畜化に関係していると考えられているが、どのような遺伝的変異が起こったと考えられるのかが正確に解明されていない。
今回、麻布大学獣医学部動物応用科学科の永澤美保(ながさわ・みほ)たちは、624頭のイエイヌの社会的認知交流を2つの課題を使って調べた。第1の課題は、実験者が、2個の椀状容器のいずれか一方の下に餌を隠したうえで、イヌに対して、容器をとんとんとたたく(タッピング)、容器を指差す(指差し)、容器へ視線を向ける(視線)という3種類の合図をして、イヌに餌が隠された容器を選ばせるというものだった。この課題では、イヌがヒトのジェスチャーとコミュニケーションを理解できるかどうかを調べた。第2の課題は、イヌに容器を開けさせて、容器の中の餌を与えるという問題解決課題だった。この課題では、イヌが実験者を見つめる頻度と時間が測定された。イヌがヒトを見つめることは、ヒトへの社会的愛着を示している。長澤たちは、624頭のイエイヌを犬種によって古代グループ(秋田犬、シベリアンハスキーなど遺伝的にオオカミに近いと考えられる犬種)と一般グループ(それ以外の遺伝的にオオカミから遠い犬種)の2つのグループに分けた。長澤たちの報告によると、第2の課題(問題解決課題)において、古代グループのイヌが実験者を見つめる頻度が一般グループのイヌより低く、ヒトへの愛着が薄いことが示唆されたが、第1の課題では、犬種間に有意差がなかった。
次に長澤たちは、ヒトに関連した認知能力の関連遺伝子が古代グループのイヌと一般グループのイヌで異なっているのかどうかを調べるため、オキシトシン(OT)遺伝子、オキシトシン受容体(OTR)遺伝子、メラノコルチン2受容体(MC2R)遺伝子とヒトのウィリアムズ・ビューレン症候群(高社会性行動を特徴とする)に関係するとされるWBSCR17遺伝子を調べた。その結果、MC2R遺伝子の2か所の変異が、第1の課題におけるジェスチャーの正確な解釈と第2の課題において実験者を見つめる頻度が高かったことに関連していた。
以上の知見により、長澤たちは、MC2R遺伝子がイヌの家畜化に何らかの役割を果たした可能性があると考えており、この遺伝子が、イヌがヒトのそばにいることによって受けるストレスを弱めるように作用したと推測している。
doi:10.1038/s41598-022-11130-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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