Research Press Release

気候変動:永久凍土の融解がもたらす影響の評価

Nature Reviews Earth & Environment

2022年1月12日

北極域の重要な周極インフラの約30~50%は、人為起源の温暖化による永久凍土の融解の結果として被害を受けるリスクが高いという可能性を示唆する論文が、Nature Reviews Earth & Environment に掲載される。同誌は、永久凍土の融解に関連した物理的変化、生物地球化学的変化、生態系の変化とそれに伴う影響を調べた論文を集めており、今回の研究によって得られた知見が記述された論文もその1つである。

北極の永久凍土地域には、凍結状態の炭素と融解中の炭素が約1兆7000億トン貯蔵されている。こうした炭素の一部は、人為起源の温暖化によって大気中に排出される恐れがあり、「永久凍土炭素フィードバック」と総称される複数のプロセスにおいて気候に影響を及ぼす。永久凍土の融解は、極地や高地のインフラの完全性にとって大きな脅威となっている。

今回、Jan Hjortたちは、人為起源の温暖化という条件下で、永久凍土地域の住宅インフラ、輸送インフラ、産業インフラの約69%が、21世紀半ばまでに地表近くの永久凍土融解が発生する可能性が高い地域に位置していると報告している。そのため、永久凍土の劣化に関連するインフラコストは、21世紀後半までに数百億ドル(数兆円)に上る可能性が生じている。例えば、ロシアでは、2020〜2050年までの永久凍土の劣化に起因する道路インフラのサポートと維持のための総コストは、追加的な道路建設がないとして、既存の道路網で4220億ルーブル(約6330億円)に達すると推定されている。Hjortたちは、こうした影響を緩和するための技術が一定数存在していることを指摘し、その一例をして空気対流盛土(多孔質岩石層を使って盛土内に対流を発生させて熱除去性を向上させる)を挙げているが、緩和方法を効果的なものとするには、リスクの高い地域に関する理解を深める必要があると結論付けている。

この論文コレクションに含まれているSharon Smithたちの総説では、気候、植生、積雪、有機層の厚さと地下氷の含有量の相互作用のために永久凍土の気温上昇には空間的変動が見られることが指摘されている。亜北極域で見られる温暖な永久凍土(気温が0℃に近い)では、温暖化速度は一般的に10年当たり0.3℃未満である。これに対して、高緯度の北極域で見られる寒冷な永久凍土(気温が−2℃未満)では、10年あたり約1℃まで気温が上昇することが明瞭に示されている。Smithたちは、永久凍土の熱的状態とその将来的な応答に関する不確実性を減らすためには、より長期的な永久凍土と周辺環境との相互作用をさらに深く理解する必要があると結論付けている。

この論文コレクションの各論文では、永久凍土と地球システムにおける永久凍土の役割の解明がどのように進んだのかだけでなく、不確実な点や解明されずに残っている点が膨大なことも概説されている。協力が、永久凍土の融解の影響を予測し、緩和するためのカギとなる。

doi:10.1038/s43017-021-00247-8

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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