神経科学:マクロファージの代謝を促進してマウスの認知機能低下を緩和する
Nature
2021年1月21日
マウスにおいて、免疫細胞の一種であるマクロファージの炎症を軽減し、代謝を促進する薬物を投与すると、認知機能低下が回復する可能性のあることを報告する論文が、今週、Nature に掲載される。今回の研究は、加齢に関連する認知機能低下を下支えする重要な変化のいくつかを浮き彫りにし、この症状が永続的なものでない可能性のあることを示唆している。
軽度の炎症は、加齢の重要な特徴の1つで、認知機能低下、神経変性、アテローム性動脈硬化症などの数多くの加齢関連疾患の一因と考えられている。こうした変化を引き起こし、持続させる機構はこれまで解明されていなかったが、今回、Katrin Andreassonたちは、マクロファージが関係している可能性を取り上げている。高齢マウスのマクロファージは、若齢マウスのマクロファージよりも代謝速度が遅く、炎症誘発性分子の一種であるプロスタグランジンE2(PGE2)の濃度が高い。今回Andreassonたちは、マウスの実験で、PGE2シグナル伝達を抑制する薬物を投与すると、細胞代謝が若齢マウスのレベルに回復し、炎症が軽減されることを実証した。また、PGE2シグナル伝達を阻害したマウスでは、空間記憶検査において加齢関連の障害が見られなくなり、学習と記憶にとって重要な脳の領域である海馬の機能と柔軟性が回復した。
今回の研究は、加齢関連の認知機能低下が、必ずしも静的または永続的な症状だとは限らず、PGE2シグナル伝達の阻害によって認知加齢を回復させられることを示唆している。
doi:10.1038/s41586-020-03160-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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