幹細胞:培養皿で人間の皮膚を作り出す
Nature
2020年6月4日
Stem cells: Making human skin in a dish
培養皿の中でヒト多能性幹細胞から作出された皮膚オルガノイドを4~5か月培養したところ、毛包、皮脂腺、神経回路を有する多層構造の皮膚組織が形成されたことを報告する論文が、今週、Nature に掲載される。今回の成果は、ヒトの皮膚の発生を研究するためのツールとなり、疾患のモデル化や再建手術に関する識見となる可能性もある。
培養系は、体外でのヒトの皮膚の発生を研究するために長い間使用されてきた。一方で、皮膚は複雑な多層器官で、体温調節や体液貯留から接触や痛みの感知に至る多様なプロセスに関与している。そのため、毛包や皮脂腺などの関連構造を含めた皮膚の再建は、主要な生物医学的課題であった。
今回、Karl Koehlerたちの研究チームは、培養条件を注意深く最適化することによってヒト多能性幹細胞から皮膚オルガノイドを作製できるオルガノイド培養系について報告している。4~5か月の培養期間の後、皮膚オルガノイドには、はっきりと認識できる表皮層と真皮層だけでなく、毛包と皮脂腺も備わり、神経回路が張り巡らされていた。この皮膚オルガノイドを免疫不全マウスの背中の皮膚に移植すると、移植片の55%に2~5ミリメートルの毛が生えた。この結果は、皮膚オルガノイドがマウスの表皮に組み込まれて、ヒトの毛が生えた皮膚を形成できることを示している。
同時掲載のNews & Viewsでは、Leo WangとGeorge Cotsarelisが、この治療アプローチを現実の治療法とするにはいくつかの疑問点が残っていることを指摘しつつも、「この研究は、臨床応用に大きな期待を抱かせるものであり、期待に応える結果がいずれ得られることを確信している」と結論付けている。
doi:10.1038/s41586-020-2352-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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