【幹細胞】ヒト胚の初期発生モデルが作製される
Nature
2019年9月12日
ヒト胚が子宮に着床した後の重要な過程を再現するデバイスが作製され、これによってヒト胚の初期発生に関する理解が進むと考えられる。今週掲載される論文には、この実験系が記述されており、慎重に制御された環境でヒト多能性幹細胞(PSC)を用いることで、ヒト胚の研究に伴う生命倫理上の問題を回避している。
ヒト胚が子宮に着床した後の初期発生の研究は、細胞培養プロトコル(改善の余地がある)と生命倫理ガイドライン(培養されたヒト胚を用いた研究は受精後14日間に限定されている)によって制約を受けている。特殊化した細胞種に分化する能力を持つヒトとマウスのPSCは、着床後胚発生のモデルを作製するために使用されてきたが、そのような実験系によって重要な発生事象を再現することに成功した例は少ない。
今回、Jianping Fuたちの研究グループは、ヒトPSCを培養するための制御可能な環境を実現し、それによって合成モデル系の効率と再現性が向上することを実証した。Fuたちは、3つの微小流路(細胞を埋め込むことができる材料を保持するための流路、細胞を装填するための流路、幹細胞の分化を促進する因子を送達するための流路)からなるマイクロ流体デバイスを開発した。Fuたちは、このデバイスを使って、ヒト胚の初期発生段階で幹細胞が主要な細胞系列に分化する過程を制御し、胚性のものに似た人工の嚢を作製した。この嚢には、生存可能な胚を作製するために必要な特定の細胞種が含まれていない。また、Fuたちは、胚発生における重要な事象を引き起こす特定の細胞種を突き止めた。
doi:10.1038/s41586-019-1535-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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