気候変動と暴力的紛争の関連性を示す証拠には偏りがある
Nature Climate Change
2018年2月13日
気候変動と暴力的紛争に関する研究文献に示された両者の関連性は誇張だとし、その理由として、過去に暴力的紛争があった利便性の高い地域で研究が行われる傾向があることを挙げた論文が、今週掲載される。
Tobias Ideたちの研究グループは、気候変動と紛争の関連性に関する査読論文を分析し、文献に最も多く登場する国々は紛争関連死者数の多い国々であるという傾向を明らかにした。これに対して、気候変動のリスクに最もさらされている国々、または気候変動のリスクの最も多い国々は、そうした研究で重点的に取り扱われていないか、紛争との関連性の研究が全く行われていなかった。さらに、気候変動と紛争の関連性についての研究は、英語が公用語になっている利便性の高い旧英国領の国々で行われる傾向も認められた。
気候変動は、最近の暴力的紛争の一部(例えば、シリア騒乱)を説明するために援用されてきた。しかし、今回の研究では、個別の事例で気候変動が紛争の原因だと断定できる場合であっても文献にサンプリングバイアスがあるということは、暴力的紛争の一般化可能性とその根底にある駆動要因のいずれも解明できていないことを意味しており、暴力を気候条件と環境条件から分離するための政策的介入に対する情報提供という点で、既存の研究の有用性が低下していることが明らかになった。
同時掲載されるNews & Views論文で、Cullen Hendrixは次のように述べている。「これらの知見は、気候関連紛争が起こる可能性の高い社会経済的条件と政治的条件を理解する能力と、気候と紛争の関連性のリスクを軽減するための政策的介入への情報提供、という2つの点で極めて大きな意味を持っている。第1に、気候変動に対する身体的曝露ではなく紛争の発生率についてサンプリングを行っているということは、気候変動が暴力を引き起こす可能性のある具体的な社会的、経済的、政治的状況に関する研究者たちの結論が、我々の期待に達していないことを意味している。(中略)第2に、気候と紛争の関連性が主に代表例ではない背景で研究されているのなら、つまり、研究しやすい旧英国領の国々で行われるのであれば、研究結果を基に気候と紛争の関連性一般を推論する能力が制限される」。
doi:10.1038/s41558-018-0068-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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