マラリア原虫のゲノム塩基配列解読
Nature Genetics
2012年8月6日
Sequencing of malaria parasite genomes
互いに関連する2つの研究で、ヒトとサルのマラリアの原因であるPlasmodium属原虫の新たなゲノムの塩基配列解読が行われ、その結果を報告する論文が、今週、Nature Genetics(オンライン版)に掲載される。
三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)には、毎年約1億人が感染しており、アフリカ以外でのマラリア症例の半数以上の原因となっている。三日熱マラリア原虫は、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)と比べて研究が進んでおらず、「放置されてきたPlasmodium属原虫」と呼ばれている。一方、三日熱マラリア原虫の近縁種であるサルマラリア原虫(Plasmodium cynomolgi)は、アジアに生息する旧世界ザルのマラリアの原因となっており、三日熱マラリア原虫とヒトマラリアの特徴を解明するための重要なモデル系となっている。
今回、J Carltonたちは、さまざまな地理的位置に由来する4種の三日熱マラリア原虫株のゲノム塩基配列の解読、組み立てと注釈付けを行った。三日熱マラリア原虫のゲノム塩基配列解読は、すでに行われているが、今回の研究で、解読された塩基配列の数は6(従来の3倍増)となり、ゲノム全域にわたるサンプリングが得られた。三日熱マラリア原虫の培養が難しいために、こうしたサンプリングは未解決の課題だった。また、Carltonたちは、三日熱マラリア原虫について、ゲノム全体にわたる遺伝的多様性の解析を初めて行った。その結果、三日熱マラリア原虫ゲノムの遺伝的多様性は、それに匹敵する熱帯熱マラリア原虫のゲノムコレクションから判明した遺伝的多様性の2倍に達していることがわかり、マラリア原虫の進化に関する手がかりが得られた。この研究で得られた知見は、治療法の設計にも重要な意味をもっており、マラリアの根絶戦略が複数の課題に直面する可能性を警告する内容にもなっている。
一方、田辺和裄(たなべ・かずゆき)、J Carltonたちの研究チームは、3種の異なるサルマラリア原虫株の全ゲノム塩基配列解読を行い、サルマラリア原虫の初めての標準ゲノム配列を発表した。また、サルマラリア原虫の遺伝的多様性の地図を作製し、形質のマッピングや機能研究にとっての情報資源を充実させ、さらには、三日熱マラリア原虫と二日熱マラリア原虫(Plasmodium Knowlesi)のゲノム比較解析を行った。その結果、サルマラリアの分岐群に関する手がかりが得られ、宿主特異性に関与する遺伝子の存在が示唆された。
doi: 10.1038/ng.2373
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