経済学:気候変動のコスト
Nature
2026年3月26日
Economics: The costs of climate change
過去の二酸化炭素(CO2)排出にともなう将来の経済的コストは、同じ排出量からすでに生じているコストの少なくとも10倍に達する可能性があることを報告する論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。この研究は、二酸化炭素排出者が引き起こした債務を定量化するために活用できる、損失および損害の測定基準を示している。
気候変動は、人間に測定可能な悪影響を及ぼしており、往々にして、最も大きな被害を受けている人々が、過去の排出量のほんの一部にしか関与していない。こうした影響を受けて、特定の排出量と被害を結びつけようとする政治的および法的な取り組みが進められてきた。しかし、気候変動の緩和策や適応策では解決できないこうした損失や損害を、具体的にどのように定義すべきかについては、明確さが欠けていた。
Marshall Burkeら(スタンフォード大学〔米国〕)は、気温上昇が経済生産(おもにGDP(Gross Domestic Product;国内総生産)にもとづく)とどのように関連しているかの推定、および排出量の変化を温暖化の進展へと変換する一連の気候モデルにもとづき、個々の排出量を地球規模および地域レベルの損害と結びつける定量的枠組みを提示している。その結果として推定される二酸化炭素排出による損失および損害は、3つの要素から算出できる。すなわち、過去の二酸化炭素排出によって、すでに発生した歴史的損害、これらの過去の排出から将来発生すると予想される損害、そして現在または将来の排出から将来発生すると予想される損害である。著者らの推計によると、1990年に排出された二酸化炭素 1トンは、2020年までに世界全体で累計180米ドルの損害をもたらしたが、2100年までにさらに1840ドル相当の損害をもたらすことになる。地域ごとの特定の排出者による損害の例を見ると、1990年以降の米国の排出量は、インドでの5000億ドル、ブラジルでの3300億ドルを含め、世界中で10兆ドルの損害をもたらしたと推定される。同期間における欧州諸国からの排出量は、世界的に6兆ドル以上の損害をもたらしたと推定される。また、過去10年間に年1回の長距離フライトを行った場合、2100年までに約2万5000ドルの将来の損害につながるという試算も示されている。
著者らは、補償は道徳的かつ法的な問題であるため、算出された損害額が必ずしも二酸化炭素排出国が影響を受けた地域に「負うべき」金額を示すものではないと指摘している。しかし、気候変動にともなう損失および損害を定義することは、排出者が自らの排出による損害に対して責任を負うよう求める取り組みを含め、将来の損害を制限するための取り組みを導くために活用できるかもしれない。炭素除去戦略には、こうした債務を削減する可能性があるものの、本研究は、それらが排出時に使用された場合にのみ効果を発揮すると示唆している。
シュプリンガーネイチャーは、国連の持続可能な開発目標(SDGs;Sustainable Development Goals)、および当社のジャーナルや書籍で出版された関連情報やエビデンスの認知度を高めることに尽力しています。本プレスリリースで紹介する研究は、SDG 13(気候変動に具体的な対策を)に関連しています。詳細は、「SDGs and Springer Nature press releases」をご覧ください。
- Article
- Open access
- Published: 25 March 2026
Burke, M., Zahid, M., Diffenbaugh, N.S. et al. Quantifying climate loss and damage consistent with a social cost of carbon. Nature 651, 959–966 (2026). https://doi.org/10.1038/s41586-026-10272-6
doi: 10.1038/s41586-026-10272-6
注目の論文
-
3月26日
古生物学:遺伝学が明らかにしたヨーロッパにおける最古の犬の歴史Nature
-
3月26日
経済学:気候変動のコストNature
-
3月25日
遺伝学:マウスにおける再クローニングの限界Nature Communications
-
3月25日
植物科学:古代ブドウのDNAがフランスワイン4000年の歴史の「栓を抜く」Nature Communications
-
3月24日
微生物学:干ばつは土壌微生物の抗生物質耐性を促進するかもしれないNature Microbiology
-
3月17日
天文学:リュウグウの試料から5種類すべての核酸塩基が検出されるNature Astronomy
