遺伝学:現代のオオヤマネコの多様性は長きにわたる種間交雑のたまもの
Nature Ecology & Evolution
2024年1月16日
Genetics: Modern lynx diversity attributed to centuries old interspecies breeding
古代のスペインオオヤマネコの遺伝的多様性は、現代のスペインオオヤマネコに及ばなかったことを示唆する論文が、Nature Ecology & Evolutionに掲載される。今回の知見は、最近の個体群縮小にもかかわらず、ユーラシアオオヤマネコとスペインオオヤマネコの遺伝的交雑が現代のスペインオオヤマネコの遺伝的多様性に寄与したことを示している。
スペインオオヤマネコ(Lynx pardinus)は、姉妹種のユーラシアオオヤマネコ(Lynx lynx)から約100万年前に分岐したが、そのゲノムには、両種間のDNAの受け渡し(遺伝子移入と呼ばれる現象)が認められている。スペインオオヤマネコは、20世紀の厳しいボトルネック効果によってスペイン南部で2つの小さな隔離個体群となり、その遺伝的多様性は全ての哺乳類の中で最低レベルだった。
今回、María Lucena-Perezらは、化石骨標本(今から約2000~4000年前のもの)から古代のスペインオオヤマネコ3匹のゲノム塩基配列を解読し、そのゲノムを、現在の2カ所の生息地のスペインオオヤマネコ30匹、イベリア半島北部の古代のユーラシアオオヤマネコ1匹(今から約2500年前のもの)、および現代の6個体群のユーラシアオオヤマネコ12匹で得られているゲノムデータと比較した。その結果、スペインオオヤマネコのゲノムには、ユーラシアオオヤマネコと連続的または反復的に交雑した経過が認められた。Lucena-Perezらは、現代のスペインオオヤマネコの遺伝的多様性が、最近の個体群縮小にもかかわらず、古代のスペインオオヤマネコに勝っていることは、この経過によって説明できるかもしれないと示唆している。
Lucena-Perezらは、今回の知見が、別の個体群の個体を導入して隔離個体群の遺伝的多様性を高める遺伝的救済などの保全戦略に影響を与える可能性があると指摘している。そして、こうした手法は通常は勧められるものではないが、スペインオオヤマネコとユーラシアオオヤマネコのように野生下での交雑を経験した種では、慎重に再考する手もあると述べている。
doi: 10.1038/s41559-023-02267-7
注目の論文
-
6月25日
ゲノミクス:古代 DNA がカルパチア盆地の多様なコミュニティー組織を明らかにするNature Communications
-
6月24日
化学:細菌がプラスチック廃棄物を鎮痛剤に変換Nature Chemistry
-
6月19日
人類の進化:アフリカからの移動に先立つ、人間の生息域の大幅な拡大Nature
-
6月19日
気候変動:気候変動が作物生産に与える影響を評価するNature
-
6月19日
動物行動学:蛾の航行は星空に導かれているNature
-
6月17日
都市:人工光が都市部の生育期を延長させているNature Cities