注目の論文

【生態学】島にネズミが侵入すると周辺のサンゴ礁の生産力が脅かされる

Nature

2018年7月12日

Ecology: Coral reefs at risk from island rats

鳥の糞は島嶼とその周囲のサンゴ礁を豊かに支えているが、この栄養素の流れがネズミの蔓延によって阻害され得ることを報告する論文が、今週掲載される。この研究知見は、サンゴ礁と周囲の生態系のつながりを明確に示している。

外洋で採餌する海鳥類は、大量の栄養素をグアノ(糞)の形で近くの島嶼に運び、これによって島嶼の動物相と植物相の生産力が高まる。しかし、こうした栄養素が再び海洋に浸出するかどうかは分かっていない。

今回、Nicholas Grahamたちの研究グループは、インド洋上のチャゴス諸島北側にある環礁を調べた。チャゴス諸島は、現在ヒトが住んでおらず、一部の島には18~19世紀にネズミが導入されたが、その他の島にネズミは生息していない。このネズミによる捕食のために鳥類個体群は壊滅的な被害を受け、鳥糞の発生量も減った。この北側の環礁には、カツオドリ、グンカンドリ、クロアジサシ、ミズナギドリ、アジサシ、およびネッタイチョウが生息しており、Grahamたちは、ネズミが生息していなければ、海鳥類の密度は760倍高くなることを明らかにした。また、Grahamたちは、鳥類の個体数、推定排便率、および糞の窒素含有量を基に、ネズミが生息していない島嶼の鳥類による陸上での窒素堆積量は、ネズミが蔓延する島嶼における場合の約250倍であることも明らかにした。

Grahamたちは、土壌と灌木の窒素同位体比を測定して、島嶼内で吸収した窒素と鳥類が輸送した窒素(海洋の生産力の高い区域に由来する)をそれぞれ区別して分析した。その結果、糞に由来する窒素の量は、ネズミが生息していない島嶼の方がはるかに多いことが明らかになった。海鳥類に由来する窒素の量が多いという測定結果は、ネズミが生息していない島嶼に隣接するサンゴ礁に生息する海藻、濾過摂食性の海綿動物、芝生状海藻(turf algae)、および魚類についても得られた。ネズミが生息していない島嶼に隣接するサンゴ礁に生息する草食のスズメダイは、他の地域より成長速度が高く、生態系の2つの非常に重要な機能である生物浸食とグレージング活動も、それぞれ3.2倍と3.8倍に達していた。そして、ネズミがほとんど生息しておらず、より肥沃な島嶼の周囲に生息する魚類群集のバイオマスが全体で48%増加していた。

島嶼内のネズミ集団を根絶して、海鳥類に由来する栄養素を回復させることは、島嶼の生態系だけでなく、周囲のサンゴ礁にも利益をもたらす可能性があるため、優先課題にすべきだとGrahamたちは結論付けている。

doi: 10.1038/s41586-018-0202-3

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