Nature ハイライト

物理:トップクォークの質量

Nature 429, 6992

1995年にトップクォークが発見され、素粒子物理の標準模型が基本的に正しいことが見事に証明された。しかしまだひっかかることが残っている。標準模型には、起源は依然として分っておらず予測もできないパラメーターが含まれている。それらの値は他の粒子や場との相互作用を通じて範囲が制限されているのである。標準模型にはまだ釈然としない部分が残っているのだ。 例えば、トップクォークの質量は、長い間仮説のままで未だに検出されていないヒッグスボソンの質量と関係している。ヒッグス粒子に伴う(同様に仮説である)場の性質は、簡単に言えば「物質がなぜ質量を持つのか」ということになる疑問に答えるうえで役に立つであろう。原理的には、トップクォークは点状で質量を持たないはずである。しかし、ヒッグス場との相互作用によって、トップクォークの物理的な質量は金原子核の質量にほぼ等しくなるらしいと考えられる。 そうするとトップクォークは非常に重いため、ヒッグス場を研究する極めて感度の高いツールになる。トップクォークの質量が十分狭い範囲に制限されれば、ヒッグス粒子の質量を予測し、標準模型の欠陥を修正するさまざまな理論の中から妥当なものを選別することができるだろう。トップクォークの精密な測定は多くのことにかかわる重要な問題なのだ。 ここで多国籍のD∅共同研究体の登場となったわけで、彼らは今までにない精度でトップクォークの質量を測定した。その値は178±4.3GeV/c2となった(GeV/c2はギガ電子ボルトを光速度の2乗で除した値を表す)。これは、ヒッグス質量の上限が219 GeV/c2から251 GeV/c2に上がったという点で重要である。ヒッグス質量として最も確からしい値は、今や、117 GeV/c2となった。既存の値96 GeV/c2は実験によって排除される。フェルミ国立加速器研究所のテバトロン加速器や、2007年に稼動を開始するCERN(欧州合同素粒子原子核研究機構)の大型ハドロン衝突型加速器でこの値の精度がさらに上がることが期待される。

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