Nature ハイライト

Cover Story:生態系の複雑性の解明:生態系がもつ脆弱 性の構造

Nature 442, 7100

食物網は、どの生物がどの生物を餌にするかという関係を描くもので、生物群集の構成を視覚化するのに役立つ。ダーウィンが、「雑踏した堤、そこは何種類もの植物に覆われ、茂みでは鳥がさえずり、さまざまな昆虫が飛び回り、ミミズなどが湿った土中を這い回る」という比喩を使って考えていたように、この関係は複雑である。表紙(Sergi ValverdeによるNetlabを使った図)は、英国シルウッドパークのエニシダを取り巻いて実在する食物網の複雑性を描いたものだ。Montoyaたちは、生態的ネットワークに関する最近の研究を概観し、理論ではネットワークが複雑化するほど壊れやすいと予測されるのにもかかわらず、複雑性が進化・維持されているという、この問題がもつパラドックスについて考察している。実際、こうしたネットワークは複雑ではあるが、理解不能ではないと彼らは結論している。食う・食われるという関係を示す図には単純化されるパターンがあり、「雑踏した堤」を構成する各部分は、それほど入り組んではいない。シミュレーションが現実に近づいてくるにつれて、生態的脆弱性に影響を与える要因は明らかになると考えられ、こうした成果は生態的インパクトや保全に関する研究に役立つだろう[Review Article p.259]。今週号には、生態学に関する研究がもう1つ掲載されている。生態系多様性に関する論争に一石を投じるであろうRooneyたちの論文は、実際の食物網で繰り返しみられるパターンが特定されている。つまり、最上位の捕食者は、食物網中で、生産性と回転率の両方が異なる、「エネルギーの速い移動経路」と「遅い移動経路」を結合するという役割を果たしている。理論的には、そのような結合は食物網の安定性に極めて重要であると考えられる。生物多様性を減少させるような人間活動が、食物網に安定性をもたらすような構造をもむしばむということは不安をかきたてる。とすれば、今は生態系多様性だけに注目することはやめ、食物網の安定性をもたらす要因のほうをもっと詳しく調べるべきときなのかもしれない[Article p.265; News and Views p.252]。生態に関する問題が複雑であることは周知の事実である。しかし、行政機関には、助言を求めるべき国際的に認知された専門家集団がない。気候変動に関してはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が存在する。現在、生態学研究者はIMoSEB(International Mechanism of Scientific Expertise on Biodiversity(生物多様性に関する専門的意見聴取のための国際機構)という枠組みを提示しているところである [Commentary p.245]。

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