生体触媒:生体触媒的脱ラセミ化によるエナンチオリッチなアトロプ異性体の合成
Nature 647, 8090 doi: 10.1038/s41586-025-09738-w
生物系は本質的にキラルな性質を持ち、2つのエナンチオマーが著しく異なる生化学的性質を示し得るという事実があるため、エナンチオピュアな物質の合成は医薬品業界や農薬業界にとって極めて重要である。特に、アトロプ異性体はキラル配位子やファーマコフォアとして特権的な地位にあるので、それらのエナンチオ選択的合成は大変関心が高い。アトロプ異性体の分離にはクロマトグラフィーや結晶化に基づく方法がよく用いられているが、より効率的かつ経済的にエナンチオリッチなアトロプ異性体を得る手法が緊急に必要とされている。点キラリティーを持つ分子を得るための立体収束的合成方法の使用は十分確立されているが、エナンチオリッチなアトロプ異性体に至る立体収束的な触媒的合成方法の可能性はまだ利用できていない。今回我々は、P450酵素の脱ラセミ化活性を報告するとともに、エナンチオリッチなアトロプ異性体への立体収束的経路をもたらすP450酵素の能力を探る。我々は、キュレーションされたP450バリアントのセットを用いて、対称置換型および非対称置換の多種多様な2,2′-ビナフトール(BINOL)構成要素を高いエナンチオマー純度まで脱ラセミ化できることを見いだした。この脱ラセミ化活性は、以前報告されたP450酵素の活性とは機構的に異なる。以前のP450酵素活性は、エナンチオ選択的結合形成を通して機能し、エナンチオリッチなアトロプ異性体をもたらしていた。これに対し、今回報告する脱ラセミ化過程は、結合回転を通して進行すると提案される。改変バリアントは相補的な選択性プロファイルと基質適用範囲を持つため、この生体触媒プラットフォームは、所望のあらゆる置換パターン向けに容易に調整できるはずである。今回の結果は、立体配置が安定なアトロプ異性体を合成する新しい立体収束的方法に着想を与えると、我々は予想する。

