遺伝学:低酸素誘導因子1αによるγ-グロビン発現の活性化
Nature 610, 7933 doi: 10.1038/s41586-022-05312-w
ヒト赤血球細胞(RBC)におけるグロビンの発現は、周産期にγ-グロビンからβ-グロビンへと変化し、その結果、胎児ヘモグロビン(HbF、α2γ2)が次第に成人ヘモグロビン(HbA、α2β2)に置き換わる。この過程がきっかけとなって、出生後のRBCのHbFレベルを高めることによって鎌状赤血球病やβサラセミアを治療しようという革新的な方法が開発された。今回我々は、HbF発現を調節するユビキチン–プロテアソーム系の成分を、CRISPR–Cas9を使ってスクリーニングすることによって、このグロビン遺伝子切り換えについて、治療に関わる知見を得た。RBC前駆体では、フォン・ヒッペル・リンダウ(VHL)E3ユビキチンリガーゼの枯渇によって、この酵素によるユビキチン化の標的となる低酸素誘導因子1α(HIF1α)が安定化され、γ-グロビン遺伝子の転写が誘発される。機構としては、HIF1α–HIF1βヘテロ二量体が長鎖ノンコーディングRNA遺伝子BGLT3中のコグネイトDNAエレメントに結合する。BGLT3は、直列に並んでいるγ-グロビン遺伝子HBG1とHBG2の2.7 kb下流に位置している。この結合が生じると、転写活性化因子が引き寄せられてクロマチンが開き、γ-グロビン遺伝子とその上流のエンハンサーとの結合が増加する。同様なHbFの誘導は、低酸素によって、あるいはHIF1αをVHL E3ユビキチンリガーゼによるユビキチン化の標的にさせるプロリルヒドロキシラーゼドメイン酵素の阻害によっても起こる。これらの知見によってグロビン遺伝子の調節とカノニカルな低酸素適応とが結び付けられ、ストレスによる赤血球形成の際のHbF誘導の機構が明らかになり、β-ヘモグロビン異常症の新しい治療法が示唆された。

